WBCで久々のワクワク感

・・・・・・・・・・・・・河辺啓二のスポーツ論(10)

〈テレビで野球観戦は少年時代の最大の娯楽〉

私が少年期を過ごした四国は巨人ファンが多かったと思う。生家はド田舎で、当時のテレビ放送といえば、NHK、NHK教育そして「南海放送」の3局しかなかった。テレビとはそんなものだと子供心に思っていたが、後に、実は都会ではNHK以外に多くのチャンネルがあることを知り、都会人をうらやましく思ったものだ。その「南海放送」は日本テレビ系列である。となると、当然プロ野球中継はすべて巨人戦となる。だから、愛媛県に生まれ育った者の多くは、必然的に巨人ファンとなるものだと勝手に思っている。野球好きの長兄の影響もあり、夜は「南海放送」の巨人戦で王や長嶋の活躍を楽しんだ。周りは田畑・森林でテレビ以外何の娯楽もなかったのだ。

四国の山奥の小学校でお勉強はできてもスポーツは苦手だった私は、プロ野球大好き少年となり、学校の図書室にある本(年鑑?)を調べ、年度ごとの優勝チーム、各個人タイトルなどの一覧表を作成して(もちろん手書き)悦に入ったものだ。イナカ+昔のことだからインターネットどころか書店もなく、図書室の本くらいしか情報源はなかったのである。

野球がほかのサッカーなどと比べておもしろくしていると思うのは、チーム競技だが個人タイトルレース(ホームラン王、首位打者、最多勝利など)が多数あることではないだろうか。

【脱線:当時の野球なぞなぞ】

 3人の有名野球選手が街を歩いていました。すると路上に1万円札が落ちていました。それを見て3人の名前を叫びました。さて、何と叫んだでしょうか。

≪解答≫

 「おぉ! 金だ! 拾おうか!」 = 「王! 金田! 広岡!」

まぁ、おやじギャグですな。

〈在京の青年時代は野球場で観戦〉

東京に住んでいた青年期は、実際に野球場まで足を運んだ。何度だったか、後楽園球場や横浜スタジアムへ観に行った。当時の巨人の注目選手は江川卓で、投手江川が打者江川として見事なホームランを打つところを目の当たりにしたことがある。(江川は投手にしてはバッティングがよいと言われていた)

当時のスター選手といえば、同じ巨人の西本、阪神の掛布、そして広島の山本あたりかなぁ。

現在の私では考えられないことだが、その頃はしょっちゅう駅でスポーツ新聞を買って通勤中読んでいたものだ。

〈関心が低下していたが、WBCは格別〉

医学生→医師の生活になると、多忙さもあるが、なぜかプロ野球への関心が薄れてきてしまった。WBCに関しては、王監督で優勝したときのことは覚えているが、そのあとの優勝やベスト4のときのことはほとんど覚えていない。きっとテレビも観なかったのだろう。

この数年は、かろうじて大谷翔平の活躍が気になる程度になってしまった。今回のWBCの侍ジャパンのメンバーで以前から名前を知っていた選手といえば、大谷、ダルビッシュと三冠王の村上と完全試合の佐々木(あと「ドスコイ」の山川)くらいかなぁ。山本、吉田、近藤、岡本など、こんなにも世界で通用する選手が多く日本にいるとは恥ずかしながら知らなかった。

普段の日本のプロ野球は全くと言っていいほど観ていないが、野球本場のアメリカで大活躍する大谷への関心から、世界のスーパープレイヤーが集まるWBCは可能な範囲内で観ることにした。

まず1次ラウンドが、木・金・土・日曜日の夜にテレビ中継されたが、仕事の都合により、途中から又は最初から観戦した。翌週、新聞で4回とも視聴率40%以上と知って日本国民のWBCへの関心の高さにやや驚いた。

次週の木曜日の準々決勝のイタリア戦も、診療の後だったので試合経過のほとんどを観ることができた。

そして次週、火曜の祝日の朝、最初から最後までメキシコ戦を堪能した。逆転サヨナラ勝ちという最もおもしろい「筋書きのないドラマ」に久々にワクワクしてしまった。

決勝の水曜日、診療の始まる前の1時間だけのテレビ観戦で我慢して仕事へ。皆さんWBC観戦で、当クリニックは閑古鳥かと思いきや、意外に患者さんは来ておられた。もちろん、待合室のテレビのWBC放映は観ていたようだ。最後の大谷vsトラウトの対決は後で繰り返し観たが、確かにマンガというか現実離れしたエキサイティングなドラマだと言っても過言ではない。

〈ずっと記憶に残るに違いない今回のWBC〉

1次ラウンドと準々決勝は、すべて6点以上の差がつく圧勝だったが、さすがに準決勝、決勝は接戦で非常に見応えがあった。既述のとおり、準決勝の村上のサヨナラ打や決勝の大谷の三振締めは強烈な印象をもたらしてくれたが、別の意味で印象に残ったのはチェコのチームだ。

「プロ野球選手」でない選手が多くいたことに驚いた。監督が医師で、あの大谷を三振させた投手の本業は電気技師だと!大谷や佐々木の160キロ超の豪速球に比べて「へなちょこ」ボールのように私ら素人に見える球なのだが、普段速いボールに慣れているプロの打者はかえって打ちづらいようだった。野球後進地域のヨーロッパで躍進したチェコの「二刀流」にリスペクト申し上げる次第である。