まえがき
この「おじさん医学生奮闘記」は、私が、三十三歳から三十九歳までの医学生、更には四十歳の研修医として、実際に、学んだこと、経験したこと、考えたことを赤裸々(・・・)に綴ったものである。読者の皆さんに私のような生き方をお勧めしているわけではないが、世の中にはこんな変人もいると思っていただければよいだろう。
私は、高邁な思想を持つ人格者でもないし、日本の医療制度こうあるべしと声高に理論武装できるほど医療の法体系を勉強した人間でもない。つまり、この本で、読者に何かを訴えたいというのではなく、ただ、医学部で何を勉強するか、医学生や研修医はどんな生活をしているか、実体験を通してお伝えしたいということなのである。
この本をご一読いただければ、今後医学部を受験する人たちに、多少なりとも参考になるだろうし、特に、私のように「オジサン」年齢で受験しようとする方々には、かなり参考になるのではないかと自惚れている次第である。
また、医学部受験は無関係な方でも、病気のときお会いする「お医者さん」は、おおむね、このような勉強や生活を経て来た人間なのだと思ってもらえれば、今までと違った「お医者さん」観ができるのではなかろうかと期待するものである。
前著の読者の方に「官僚のときと、医学生のときと、どちらが大変でしたか」と聞かれたことがある。即座に「医学生のときのほうが、勉強をして自分が進歩・向上できる分、よかったと思う」と答えた。全く架空の話だが、もし神様が、今、医学生に戻れと言われたら、喜んで戻りたい。大学の定期試験は大変だが、教養課程で、今度はフランス語をしっかりと勉強したいし、専門課程前半では、最新の分子生物学、免疫学などの基礎医学を学び直したいし、専門課程後半では、医者としての経験を経た「眼」で、いろいろな臨床科の実習に参加したい。(ただ、ドツボ(・・・)の研修医生活はご勘弁願いたい)
そう思うということは、工学部を卒業してからの、九年間の役人生活、六年間の医学生生活、一年弱の研修医生活、そして、約七年間の開業医生活の中で、六年間の医学生生活が最も楽しかったのだろう。(もちろん、今の開業医生活も捨てたものではない)
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