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新型インフルエンザワクチンの行方(2)

2009.11.29

・・・・・・河辺啓二の医療論(2)

初の理系宰相の新政権に期待した医療行政なのだが、早くもオソマツさを露呈している。国だけでない、地方公共団体も、そして医師会も。新政権医療政策の喫緊の課題が新型インフルエンザ対策だが、そのワクチン施策は、あまりに「遅拙」だ。


1 供給が少ない!
半年も前から、日本中で大騒ぎとなりながら、やっと新型インフルエンザワクチンができ、供給できるようになったのが10月。被接種者のトップバッターとして選ばれたのが、医療従事者で、10月19日から始まったと報じられた。
ところが、私ら地方の診療所の手元に届いたのは10月の終わりで、しかも要求した人数分にはほど遠く、次回の、喘息や糖尿病等の基礎疾患を有する優先患者の分を充てざるを得ない事態となった。
ワクチン供給が少ないのは、私ら小規模医療機関だけでなく、入院設備を持つ総合病院も同様のようだ。例えば、つい先日、ある総合病院勤務の看護師が「医療従事者だから優先して接種してほしい」と私の診療所に来院した。聞いてみると、供給されたワクチンは、医師、外来担当看護師だけで終わってしまい、自分らのような病棟担当看護師まで回らなかったという。同情し、接種してあげたものだ。


2 供給が遅い!――なぜ集団接種を推奨しないのか
今、新型インフルエンザに罹患した患者で、全国の病院、診療所はごった返している。同時に、喘息や糖尿病など持病を有する患者、年少者への優先接種が行われている。従来の季節性インフルエンザワクチンは、毎年流行期の冬の始まる前の10月、11月に行われていた(今年もそうだが)。ところが、今回の新型インフルエンザワクチンは、流行期の真っ只中に行われているのだ。要するに、40℃近い発熱で新型インフルエンザに罹患した患者が何人もいる場所で、健康状態にある人がワクチン接種の順番待ちをしていることになる。もちろん、病院側は、発熱者を待合室と別の部屋に入れたり、駐車場の車内で待機させたり、最大限の工夫をしているが、限界がある。特に小規模の診療所にいくつもの待機部屋はない。
健康状態のよい人だけが、定められた時間帯に集まって、例えば地域の保健センターで接種すれば、罹患のリスクがなくなる。ところが、国、県は、そのような集団接種の推奨をしない。すべて市町村にお任せの構えなのである。地域によっては、保健センターや保育園、幼稚園、小学校での集団接種が行われているようだが、今のところ少数派のようだ。


3 助成が全くなし
「こども手当」でカネばらまくくらいなら、ワクチンの助成くらいできないものか。一人3600円×1千万人=360億円の予算は、全額とするととても捻出できないだろうが、一部助成してもよいのではないか。やはり、国は地方公共団体に「丸投げ」しており、ごく一部の市町村で助成されているやに聞いている。
そもそも国が価格(1回目3600円、2回目2550円)を設定し、クスリ問屋からの納入価まで決めていながら、全く公費負担がない。こんなこと、今までのワクチンであっただろうか。BCG、ポリオ、麻疹風疹ワクチン、三種混合(DPT)ワクチン及び日本脳炎ワクチンは、公費で行われ、該当年齢の患者は負担なしだ。「任意」と呼ばれる、おたふくかぜや水痘のワクチン、そして最近行われるようになったヒブワクチンは、患者が全額負担で、価格は病院の自由設定となっている。これら従来のワクチン価格施策は、いちおうの説得力がある。ところが、今回の新型ワクチンに関しては、公費ゼロなのに価格が一律設定されており、???と感じざるを得ない。


4 10mlバイアルを考えた犯人は誰だ?
国会で、長妻厚生労働大臣が、前大臣の舛添さんの質問に対し、10mlバイアルのほうが(生産が)低コストだからと答弁したらしいが、いかにも年金問題には強いが、医療問題に疎い長妻さんらしい。もちろん、厚生労働省の官僚(医系技官を含む)の意見も踏まえてのことだろうが、医療行政に係る官僚も政治家も、あまりに医療の現場を知らなさ過ぎる。成人で0.5mlだから、1バイアルで20人を当日中に使いきらなければならない。例えば、15人しか来なければ、残りの5人分は廃棄される。もし22人だったら、(2バイアル開けて)18人分廃棄となる。供給量が少なくて困っている状況でこのようにしなさいと「お上」はおっしゃるのであろうか。
当初の計画では、ワクチン供給後半戦で、10mlバイアルをどんどん増やすようだったが、あまりの不評で、来年になると10mlは止めることが決まった。いつも「後手後手」の日本の行政は、新政権になっても、ちっとも変わらない。


5 返品ができない新型ワクチン
 注文しても、数割しか入荷できない。もし、残った場合、返品不可、というのが薬剤問屋からの指令だ。こんな商取引、あるのだろうか。患者さんからワクチン予約をもらっても、都合でキャンセルされることは多々あるものだ。しかし、医療機関から問屋にキャンセル返品はできない。医療機関によっては、患者さんから「前払い」方式をとるなどの対策を講じているところもあるらしい。
 要するに、国は、新型インフルエンザワクチンに関する経済的リスクをすべて医療機関に負わせようとしているのだ。「医は仁術」だからそれくらいやれ、というのだろうか。それなら、そうと正直に「お願い」してほしいものだ。われわれ民間の医療機関は、公共的な「医療」を行う際、どうしても「経営」という視点を考えざるを得ない。いくら公共の福祉に資するため、とはいえ、赤字とわかる事業を行うことはできない。「今回の新型インフルエンザだけは、(国家的な緊急課題だから)経営を度外視してくれ」と政府から日本医師会に協力要請したらどうだろうか。