・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(1)
〈現時点での「町医者」の状況〉
本日10月19日から医療従事者向けに新型インフルエンザワクチンが接種されると報道された。だから、患者さんの中には「お医者さんはいいよね。真っ先にワクチン打てて」ともらす方もいる。ところが、私ら末端医療現場の医師には、全くその気配がない。取引している薬問屋に聞いても、その問屋にすら入荷されていないらしい。今のところ、いつから接種できるか、全く見当が立たない状況である。
毎日のように患者さんから「いつから新型インフルエンザのワクチンができるのですか」と聞かれる。上述のようなお話をすると、「お医者さんがまだならしかたないわね」と納得される。
〈期待した民主政権だが・・・〉
新型インフルエンザ騒動の起きた5月、6月頃は、簡易検査でA型陽性が出たら保健所でPCR検査という精密検査を行い新型かどうか同定していたものだ。全国で多数の罹患者が出た夏以後は、PCR検査は省かれてしまい、A型陽性=新型陽性とみなすこととなった。まぁ、今や、罹患者が全国で何十万人、いや百万人に達しそうな現状では当然であろう。
政権交代があっても、新型インフルエンザワクチンに係る行政の稚拙さは従来どおりだ。とにかく遅い。アメリカではワクチン接種がとっくに始まっているというのに、この鈍速さはどうだろう。まぁ、スピードについては他の論客にお任せしよう。(途中政権交代したことは言い訳となり得るだろうが)
〈さすがは厚生労働省(←皮肉)〉
私が、特にひどいと思うのは、あまりに世間離れしている「○○万人分の接種を可能とした」としたり顔でアナウンスする厚生労働省の非常識さだ。一般人患者に対する補助措置は講じず、患者全額負担(補助もしないのに、なんで価格が決められるのか。こんなワクチン今まであったっけ?公費負担のある、三種混合や麻疹風疹なら価格設定されて当然だろうが、自費である水痘やおたふくのそれの価格設定は自由となっている。もちろん、季節性ワクチンも同様に自由価格だ。したがって、今回のワクチンと従来のワクチンの価格設定について整合性がとれていないことになる。)として、ほとんどの該当者が当然接種に来ると思い込んでいる。その根拠を知りたい。リストラされて毎日ハローワーク通いしている多くの「貧困層」にとってウン千円というのは少額ではない。事実、私の患者さんの中でも、受ければ治るかもしれないある治療を、経済的理由だけで受けられない人が何人もいるのである。「健康」はある程度お金で買うものだと言われて反論できないのが現在の日本であろう。また、「健康」に対する価値観の多様性にも留意しなければならない。パチンコではよく1万円失うのに、病院の窓口で数千円の支払いを高いと感じる人もいるのだ。
現在行っている季節性インフルエンザワクチンだって「自費」であるため「高い」と感じ、受けない人が山ほどいる。
昔から厚生労働省の役人は医療現場を知らない(どの省庁も現場知らずではあるが)。医系技官といったって、医師免許を持っているだけで、臨床経験の乏しい人が多い。
〈結局、ワクチンは残るだろう〉
畢竟、「新型インフルエンザワクチンは残るのではないか」というのが私の予測だ。野党に転落した自民党がこのワクチンの無料化を訴えているようだが、ま、これもエエカッコシであろう。結局、「ヘタな医療行政をする与党vsケチばかりつける野党」という構図は変わらないのかなぁ・・・。
私の予測がはずれてしまうことを祈念してやまない。
〈恐怖の季節が到来・・・〉
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現在、私の診療所には、季節性インフルエンザワクチンの接種を受ける患者さんと新型インフルエンザに罹患していると思われる患者さんの両者が毎日多く来院される。このまま推移すれば、年末~来年には、新型インフルエンザ大流行、更に季節性インフルエンザも大流行となる可能性がある。遅れてやって来た新型インフルエンザワクチンを一般患者に接種できる頃には、「今、家族や同僚がインフルエンザに罹っています」という理由でワクチン接種断念(周囲に感染者がいるときはワクチンはできない)したり、あるいは「新型インフルエンザには先月罹りましたから」と接種不要としたりする人が続出するのではないだろうか。