・・・・・・・・河辺啓二の映画論(2)
〈観たかった「沈まぬ太陽」〉
昨日やっとテレビ録画したままだった「沈まぬ太陽」を観た。テレビ放映のものなのでCMを含めると4時間もある大長編(映画自体の長さは3時間22分らしい)だったが、その長さを感じさせることのないすばらしい作品だった。
以前、話題になったとき、映画館に行く時間がなく、いつか観てみたいと思っていたものである。数年前映画館で観た「クライマーズハイ」も、日航機御巣鷹山墜落事故が舞台となっていたが、地元新聞社の記者の立場から描かれていた。「沈まぬ太陽」は日航社員の立場から描かれている。映画時間が倍ほどもあり、御巣鷹山のことだけでなく、日航(映画では「国民航空」)社員で同社の労働組合委員長を務めた恩地元(渡辺謙)と彼を取り巻く人々の描写を通して、人の生命に直結する航空会社の社会倫理を表現した作品であると言える。
〈「沈まぬ太陽」で描かれる対照的なサラリーマン人生〉
国民航空の労働組合委員長として経営陣と対立した結果、カラチ、テヘラン、そしてナイロビと足掛け8年に渡る「現在の流刑」にも等しい左遷人事に耐える中で、母と死別し、家族と別れることになった恩地と、大学の同輩であり組合の副委員長として恩地を蔭ながら支えてきたものの、後に恩地と袂を別ち、出世街道を歩むこととなる行天四郎(三浦友和)の、対照的な二人の人生が描かれているところが実におもしろい。
要するに、愚直なまでに信念を通す人生とうまく流れに乗っていく人生の対比だ。多くのサラリーマンの視聴者の琴線に触れたのではないか。私のように、同じ大組織に所属していながら、十年足らずに離脱して転身した者から観て、同じ組織―会社に何十年も帰属して生きる人生ってどういうものなのだろう・・・とこの二人の社員の生き様が完全には理解できなかったような気もするが。
久しぶりに、映画館でないにしてもいい映画を観た。
〈映画「ノルウェーの森」を観た理由〉
直近に映画館で観た映画は、「ノルウェーの森」である。先月上京した際、時間が空いたので、以前から興味のあったこの映画を観ることにした。
興味があったのには、三つ理由がある。一つには、村上春樹という毎年ノーベル文学賞候補になる世界的作家の作品を一度も読んだことがないので「村上文学」の一端に触れてみたいと考えていたことだ。二つめは、主人公を演じる松山ケンイチの演技だ。以前、映画「デスノート」「デトロイト・メタル・シティー」やTVドラマ「銭ゲバ」を観て、若いのに様々な役柄を見事に演技する名俳優松山ケンイチに関心を持っていたのである。三つめは、なんといってもビートルズマニアゆえタイトルに惹かれたことだ。実際には、映画の中で出演の女性がアコースティックギターで「ノルウェーの森」の弾き語りをしたのと、エンディングでオリジナルのビートルズナンバーが1回流れただけである。特にBGMでも流れなかった。ストーリーと「ノルウェーの森」との関係がわからなかった。
〈映画「ノルウェーの森」は理解し難い〉
映画「ノルウェーの森」は、私個人の感想ではあまり好きなタイプのものではなかった。あまりに性的表現が多すぎて、「え~、これが世界的評価を受ける村上文学なのか」と少し驚いた。昔から文学作品にはよく性的表現はあったものだが、私のように文学的センスのない人間には理解しにくいものだった。小学生や中学生には観せられないなぁと感じた。
そもそも、私は文学青年でなかった。もちろん、現在「文学中年」でもない。小学生の頃、学校の図書室から本を借りてよく読んだものだが、小説などフィクションは、大人になってからはほとんど読んでないような気がする。いつも教養書的なものばかり買って読んできた。悲しいかな、フィクションという架空の世界がどうも受け入れにくくなってしまったようだ。そう言えば、史実により近い「項羽と劉邦」のほうが脚色の多い「三国志」より好きなのも同様な理由からだろう。
〔ちなみに、大学入試センター試験の国語は、毎年、第1問:論説的文章、第2問:文学的文章、第3問:古文、第4問:漢文 と出題が決まっている。私は、模擬試験でも、本番でも、この第2問でいつも失点していた。〕