・・・・・・・・・河辺啓二のスポーツ論(1)
〈なぜ浅田選手は敗れたのか〉
バンクーバー冬季オリンピック・フィギュアスケートで金メダルが期待された浅田真央選手が予想外の大差で敗れたのは、戦略負けによるものだ。孫子の「彼を知り己(おのれ)を知らば、百戦するもあやうからず」のとおり、浅田選手の本当の「敵」は、GOE等のポイント制のルールであるのに、その研究が不十分であった感は否めない。いくら高度な難技が成功しても、総合点で競うことが当該試合のルールなら、金メダルを狙う以上は、そのことに徹底して研究・練習すべきだった。[男子の銀メダリストも同様だろう。]
〈採点競技は大学入試と同じ〉
大学入試と同様で、例えば、全5問の試験で、難問2問できた40点答案は不合格となり、易問3問できた60点答案が合格となることと似ている。このことは、特に数学の試験で生じやすい。問題によって難易度に大きな幅がある。ほとんどの受験生が解けそうにない難問が解けたとしても、他の容易な問題を解く時間がなくなってしまっては、総得点が低くなる。こんな難問が解けるとはすばらしい、総得点が低くても合格にしてやろう、とは決して大学側は思わないものだ。
金メダルを取るためには、真の「敵」を徹底研究する必要がある。審判の主観が入りにくい、単なる速さ等を競う競技ならともかく、ポイントで競う競技は、(時代によってルールが変わるので)当該試合の時点での採点法に則って高得点を得る術(すべ)を磨くことが重要だ。この方法で見事成功したのが、一昨年北京五輪で金メダルを獲得した柔道の石井慧選手だ。彼は欧州にまで赴いてそのポイントのルールを徹底研究していた。