・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の音楽論(9)
「サンデー毎日」8月31日号におもしろい記事が掲載されていた。読者1700人余のアンケート「人生で心に残っている音楽を邦楽、洋楽で1曲ずつ挙げてください」の結果だ。邦楽は前回号で発表されている(ちなみに、トップは、美空ひばりの『川の流れのように』)。今回の洋楽(クラシック音楽も含む)は、やはりというべきか、ビートルズのツートップ(『レット・イット・ビー』『イエスタデイ』)である。上に掲げた記事から、総合ランキング上位32曲の中でアーチスト別に、ランクイン曲数と総得票数を集計してみると、以下のようになる。
〈アーチスト別ランキング〉
①ビートルズ 5曲 106票
(ジョン・レノンの『イマジン』(4位:25票)も含めると6曲で131票)
5曲中、ポールとジョンの共作は『抱きしめたい』(21位:6票)のみで、『レット・イット・ビー』(1位:44票)、『イエスタデイ』(2位:39票)、『ヘイ・ジュード』(10位:12票)、『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』(26位:5票)の4曲ともポールの単独作曲・ソロボーカルである。4曲の総得票数はちょうど100票だ。
②カーペンターズ 2曲 36票
わずか2曲だが、どちらも『イエスタデイ・ワンス・モア』(6位:21票)、『トップ・オブ・ザ・ワールド』(8位:15票)と上位。
個人的には、『クロース・トゥ・ユー』が好きなのだが・・・。
③イーグルス 2曲 34票
日本で売れた、外国アーチストのレコード数では、ビートルズ、カーペンターズ、サイモン&ガーファンクルが御三家だということを聞いたことがあるが、サイモン&ガーファンクルを1票差で上回ったのがイーグルス。なにしろ特大ヒット曲『ホテル・カリフォルニア』がビートルズのツートップに続く第3位、29票を集めた。もう1曲は『デスペラード』(26位:5票)だ。
④サイモン&ガーファンクル 3曲 33票
私が中学生の頃、洋楽に目覚めて、ゼーガーとエバンスの『西暦2525年』やレターメンの『涙のくちづけ』の英語の歌詞を覚えたりしていたが、その後ハマッたのがこのサイモン&ガーファンクル。高校生のとき、少ない小遣いから彼らのLPレコードを買っていったものだ。(ビートルズに傾倒したのは、その後のこと)
3曲の内訳は、なんと言っても『明日に架ける橋』(7位:19票)、そして『サウンド・オブ・サイレンス』(17位:8票)、『コンドルは飛んで行く』(21位:6票)である。
個人的には、とても美しいメロディーとハーモニーの『スカボロー・フェア』がランクインしていないのは意外と感じた。
⑤ビリー・ジョエル 2曲 23票
『ストレンジャー』などのヒット曲が多数あるが、ランクインしたのは、『オネスティ』(8位:15票)と『素顔のままで』(17位:8票)であった。ビートルズの影響を受けたと思われるビリーのサウンドは日本人にも受けている。
個人的には、ノリがよくてカラオケでも歌いやすい『ガラスのニューヨーク(You May Be Right)』がお気に入り。
⑥ベートーベン 2曲 21票
ここでクラシック最高峰が登場。『交響曲第9番』(15位:9票・・・言わずと知れたあのダイク)より『交響曲第5番』(10位:12票・・・ジャジャジャジャーンの「運命」)が上位だったのは意外。
以上、総合ランキング上位32曲中、2曲以上ランクインしているアーチストについて述べた。
他の超有名アーチスト、フランク・シナトラ(『マイ・ウェイ』5位:24票)、マイケル・ジャクソン(『スリラー』10位:12票)、クイーン(『ボヘミアン・ラプソディ』15位:9票)、シカゴ(『素直になれなくて』26位:5票)、エルトン・ジョン(『ユア・ソング』26位:5票)と、「一発屋」でもないのに(多数ヒット曲があるにもかかわらず)ランクインは1曲だけであった。
クイーンの代表曲は『伝説のチャンピオン』『ウィ・ウィル・ロック・ユー』と思っていたのだが・・・。カラオケで洋楽リストを見ると、サイモン&ガーファンクルやカーペンターズは数十曲しか載っていないのに、クイーンはビートルズ並みに数百曲掲載されており、日本でのクイーンの人気は大変なものだと思っていただけに、わずか1曲しかランクインしていないとは・・・・。
〈なぜか選に漏れたアーチストたち〉
大ヒット曲があるにもかかわらず1曲もランクインしていない大物アーチストについて述べてみよう。もちろん、私の独断・偏見・趣向によるものである。
Ⅰ ローリング・ストーンズ
あれほど日本でのコンサートで何万人もの観客を集める人気グループなのだが、1曲もランクインしていないとは・・・。「人生で心に残る音楽」という観点では除外されてしまうのか。『サティスファクション』『黒くぬれ!』『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』などカッコイイ曲が多いが「心に残る」美しいメロディアスな曲というと・・・。『アンジー』でもイマイチかなぁ。
Ⅱ ビージーズ
『マサチューセッツ』などの初期のヒット曲、大ブームを起こしたディスコサウンド『ステイン・アライブ』『ナイト・フィーバー』などノリのいい曲はともかく、『ジョーク』『ホリデイ』『愛はきらめきの中に』などの美しい曲さえも選ばれず。
Ⅲ エルビス・プレスリー
『この胸のときめきを』くらい入っているかと思いきや、ゼロだった。今回のアンケート対象者は、40歳代~60歳代が中心で、プレスリー世代よりやや若いビートルズ世代だったためだろうか。
Ⅳ ポール・マッカートニー(ソロ)
ビートルズ時代に作った曲が圧倒的大勝利を収めているわりに、ソロ時代の曲は選ばれず。『マイ・ラブ』『バンド・オン・ラン』『心のラブ・ソング』など多数の全米ナンバーワンヒット曲があるものの、ビートルズ・ソロメンバーでは、ジョン・レノンの『イマジン』のみ、それも4位という上位ランクインである。まぁ、天才ポールといえども、ビートルズ解散後の20歳代終盤、30歳代以降は、若いときほどの溢れる才能がやや翳ったのかもしれない。確かに耳に残りやすい曲が多く、大ヒット曲連発の実績はあるのだが、『レット・イット・ビー』『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』のような荘重な名曲、『イエスタデイ』のような美しい名曲に肩を並べるほどの作品はできなかったようだ。
私見だが、ジョンの作った曲の中で、最もカッコイイ曲はビートルズ時代の『カム・トゥゲザー』、最も美しい曲はソロ時代の『ラブ』だと思っている。
Ⅴ ボブ・ディラン
名前は相当知られているのに、1曲もなし。海外で評価の高い『ライク・ア・ローリング・ストーン』も『風に吹かれて』も、一般日本人の心には残りにくいようだ。
Ⅵ ダリル・ホール&ジョン・オーツ
『キッス・オン・マイ・リスト』、『プライベート・アイズ』、『マンイーター』など全米ナンバーワンヒット曲を多く出しており、また、日本での人気も高かったわりには、ランクイン曲ゼロ。年代的にもファンがいてもよさそうなのだが?
Ⅶ アース・ウィンド・アンド・ファイア
『宇宙のファンタジー』、『セプテンバー』『ブギー・ワンダーランド』など、日本人にも馴染みの曲も多いし、全米R&Bナンバーワン曲を多数出しているが、ランクイン曲はなかった。このグループも、年代的には好きな日本人が多そうに思えるのだが・・・。
Ⅷ 1970年代に一世を風靡した「ニューロック」など
アンケート回答者の年齢層を見ると、私と同じ頃に青春時代を過ごした人が多いと思う。ビートルズやサイモン&ガーファンクルが解散した後の1970年代に、私たち青少年の間で流行した洋楽といえば「ニューロック」(今では「死語」か)だ。CBSソニーからはその頭文字どおり、シカゴ、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ、サンタナがヒット曲を出した。この中でシカゴはランクインしているものの、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズの『スピニング・ホイール』もサンタナの『ブラック・マジック・ウーマン』も選ばれなかった。
シカゴ以外の「ニューロック」では、総合部門でなく男性部門の下位にやっとレッド・ツェッペリンの『天国への階段』(私には『移民の歌』のほうが馴染む)がランクインしているくらいだ。私たちが少年時代聞いて感動したあのピンク・フロイドの『原子心母』も、クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤング(C ,S, N&Y 個人的には『キャリー・オン』が印象的)も、グランド・ファンク・レイルロード(個人的には『ハートブレイカー』がよかった)も無視されている感じだ。
「ニューロック」の範疇ではなさそうなフィフス・ディメンションの『輝く星座/レット・ザ・サンシャイン・イン』も、もうちょっと古いがアメリカでの評価は高いビーチ・ボーイズの『サーフィンUSA』も、ランク表で見当たらない。イギリスではビートルズ、ストーンズと並び称されるザ・フーも見当たらず。
古いと言えば、ポール・アンカもニール・セダカもなかったなぁ。
Ⅸ 女性アーチスト
女性ボーカルが中心のアバ、そしてソロのシンディ・ローパー、シーナ・イーストン、オリビア・ニュートン・ジョン、ホイットニー・ヒューストンなど名だたる女性アーチストが選ばれず、カレン・カーペンターの歌がメインのカーペンターズが目立つ程度で、あとはマヘリア・ジャクソン(『アメイジング・グレイス』17位:8票)など僅かである。
〈日本人好みの曲とは〉
ランキング表を眺めていて気づくのは、「日本人はピアノ曲に弱い」というのは本当かもしれないということだ。ポールの『レット・イット・ビー』(1位)、『ヘイ・ジュード』(10位)、『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』(26位)、ジョンの『イマジン』(4位)、カーペンターズの『イエスタデイ・ワンス・モア』(6位)、サイモンの『明日に架ける橋』(7位)、ビリーの『オネスティ』(8位)、シカゴの『素直になれなくて』(26位)、イーグルスの『デスペラード』(26位)、エルトン・ジョンの『ユア・ソング』(26位)は、どれもピアノ伴奏が基調だ(特にイントロ)。ビリー・ジョエルやエルトン・ジョンはピアノ・マンだから当然だろうし、カレン・カーペンターもピアノ伴奏の印象だ。しかし、基本はベースとギターだったポールとジョン、フォークのサイモン、ブラスのシカゴ、ロックのイーグルスがピアノ基調の曲にしたものが大ヒットし、日本人の心に長く残っているのである。