・・・・・・河辺啓二の「お勉強」論(1)
〈只今、フランス語学習奮闘中〉
フランス語を勉強しようと初めて思ったのは、いつのことだろうか。おそらくは、官僚時代末期に、ジュネーブで開かれたILO(国際労働機関)の会議に政府代表団の一員として出張中、週末観光で訪れたパリで英語がほとんど通じなかったことの悔しさからだったと思われる。ただ、そのときは「勉強しよう」と思っただけで、実行したのは、「パリの屈辱」から1年経た、後述する医学部再入学後の教養課程時代である。
医学部専門課程、研修医時代は多忙のため、全くフランス語を勉強せず。久々にNHKラジオ講座でも、と思ったのは、医師になって数年経って、やや落ち着いた生活になってからである。しかも、それも中途で頓座。その後、上州の地に開業、住居を構えて何年も経過した後、「中年検定マニア」になってから三回めとなるフランス語学習挑戦が始まったのだ。まさに「三度目の正直」で、今回は、NHKラジオ講座を何年も聞き続け、フランス語検定も受け続け、合格級も上がってきている。
〈英語以外の外国語への誘い〉
中学以来、英語以外の外国語は学ぶことなく、多くの日本人同様、私にとって、外国語=英語であった。
初めて大学に入った19歳の時、第2外国語としてドイツ語を選択した。正確に言うと、東京大学の場合、入学試験願書の記入の際に、第2外国語として、ドイツ語未修、ドイツ語既修、フランス語未修、フランス語既修の4つの中から選ぶように設定されていたと記憶する。ほかにロシア語か中国語があったようだ。ただ、理系は、中国語が選択できなかったと思う。要するに、第2外国語といえば、おおむねドイツ語かフランス語であった。18、19歳の少年たちにとって、受かってもいない「入学後の」第2外国語のことなど真剣に考える余裕もなく、一番上にある「ドイツ語未修」に印を付けてしまう。そのためなのであろうか、今でも東大教養学部の1、2年生で第2外国語は、ドイツ語を学ぶ者が最も多いらしい。
暗い浪人時代から解放された私は、覚えたばかりの麻雀にうつつをぬかし、ドイツ語をはじめ、ほとんどの授業に出ず、雀荘通いしたものだ。したがって、このときのドイツ語の成績は、やっと単位を取れる、すべてC(可)であった。
後年、官僚になって、総務庁(総務省)に出向中のとき、親しくなった同僚で、警察庁から来ているキャリア(東大経済学部卒)の人が「学生時代ドイツ語は全部A(優)だったなぁ」などと自慢でもなく話しているのを聞いて、「霞が関というのは、そういう人たちが集まるところなのだなぁ」と心の中でつぶやいたものだ。
更に後年、医学部(東大理三)再入学したときは、またしても「ドイツ語未修」としてドイツ語に今回は真摯に取り組み、すべてのドイツ語の授業に出席し、オールA(優)に近い成績(1個だけB(良)だった)を得ることができた。
医学部再入学以前で、英語以外の外国語は、(サボりまくったドイツ語の)ほかに何か勉強したかなぁと振り返ってみると、工学部生のとき、数か月間、NHKラジオ講座でスペイン語を勉強したことが思い出される。当時、官僚を目指し始める前で、技術者より商社マンがいいかなぁと思い、商社勤務していた兄がスペイン語圏の国で仕事していたことに影響されたものであった。
〈中年「外国語オタク」物語〉
再入学した東大教養学部1年生のときは、外国語学習にハマッた。第1外国語の英語、第2外国語のドイツ語は必修で当然勉強しなければならなかったが、選択の第3外国語がいくつでも履修できた。そこで、33歳の「外国語オタク」となった私は、フランス語、スペイン語、イタリア語、中国語の授業に出ることとした。外国語専門学校に通うなら月謝が要るのに、大学だとタダというのもあった。更に、時間の都合で授業に出られないロシア語、ハングル語は、NHKのラジオ講座を聴くこととした。しかし、こんなにも多言語をいちどきに覚えられるはずがなく、次々と脱落したものだ。NHKは、もちろんテキストは4月号のみ。大学のフランス語、スペイン語、イタリア語、中国語も、教科書を買って(学習用テープまで購入した言語もあった)何度かは講義に出席したが、ゴールデンウィーク過ぎて数週間経つ頃からアップアップとなった。なんとか6月頃まで粘ったのはフランス語だけとなった。
学んだことは、全くといっていいほど、覚えていない。イタリア語の先生が、教室の後ろの出入り口から入って来て、いきなり近くに座っている学生を矢継ぎ早に指し、先週の復習として、動詞かなんかの活用を声高に復誦させていたのを覚えているくらいか。結構キツカったものだ。
キツいといえば、フランス語の先生も厳しかった。授業中頰杖していた学生に対して何分間もお説教をしていたほどだ。フランス語の発音は日本人には難しく、最初は発音の学習だけで数時間もかけていた。(あえて日本語で書くと)「ユイ」というフランス語の発音があるが、かの先生、「「浅香唯」の「ユイ」です。可愛いけど歌はドヘタでしたね」とジョークをとばしていた。確かに、今は可愛いだけの歌手はいなくなっているが、昔は「顔だけ」歌手は多かった。浅香唯はその最後の歌手だったように思われる。ちなみに、これは平成初期の頃のお話である。
〈フランス語は難しい?〉
さて、標題のフランス語の難しさを述べる前の話が長くなってしまった。本当に身を入れて学習した(つまり、大学での試験とか検定試験とか受けるための勉強をしたということ)外国語は、私にとって、①英語、②ドイツ語、③フランス語の三言語に過ぎない。だから、フランス語が難しく感じるのは、英語・ドイツ語と比べての実感でしかない。とりあえず、初学者にわかりやすい発音と文法という観点から見ると、フランス語は、英語・ドイツ語より難しい、複雑、学習しにくいということができるだろう。
私が、英語でない外国語を、ドイツ語→フランス語と重点を変えて、この数年間、勉強してきたのは、2回目の大学教養時代、ある英語教官の授業中に放った次の言葉が忘れられないからだ。
「英語なんて、要するにドイツ語とフランス語が合わさって(混ざって)できた言語だ」もともとゲルマン系のドイツ語に、ラテン系のフランス語(特に語彙)が加わったということだ。次回に、このことを踏まえて、本題のフランス語学習の難しさについて述べたいと思う。