・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(18)
喫煙率の数値目標が初めて盛り込まれた「がん対策推進基本計画」が閣議決定された。2022年度までに成人の喫煙率を12%に低減させるという。遅きに失した感は否めない。ある推計では、喫煙が主な原因と思われる死者数は年間13万人以上、更には、他人のたばこの煙、すなわち受動喫煙が原因の死者数は年間約6800人にも達するという。
海外では公(おおやけ)の場での喫煙を法律で禁じているところが多いのに、喫煙者に甘い我が国にはそういった強い規制はなく、「健康増進法」で受動喫煙対策を努力規定している程度しかない。
喫煙率を下げる数値目標設定がこれまで導入できず、また、公共の場での受動喫煙防止策の強化が難航している背景には、たばこ農家、JTといったたばこ業界とたばこ税・JTを所管する財務省、そして飲食業界及びこれら業界とつながる政治家たち、すなわち政・官・業が一体となった「ムラ」が喫煙率低下阻止、受動喫煙の法規制阻止を図っていることである。
喫煙による発がんなどの健康リスクは、放射線量に換算すると年間1000~2000ミリシーベルトに相当するという推計がある。つまり、福島原発事故で国民に放射線被曝リスクを負わせてしまった張本人がいわゆる「原子力ムラ」とされているが、それより大きな健康被害をもたらすことが既に明白になっている喫煙を「保護」しているのが「たばこムラ」であると言っても過言ではないのではないか。