2009.09.13
・・・・・・・・・河辺啓二のTVドラマ評(1)
今、TVで2つもの「公務員ドラマ」が放映されている。一つは、TBSテレビ日曜午後9時~「官僚たちの夏」、もう一つはNHK土曜9時~「再生の町」だ。前者が国家公務員版、後者が地方公務員版だ。ドラマといえば、恋愛もの、青春もの、学校もの、刑事もの、そして医療もの(あと、刑事ものに若干カブるが、検事や弁護士が主人公の法廷ものがある)といったところが定番のような気がするが、公務員ものは極めて珍しい。
公務員が主人公の作品で思い出されるのは、古くは黒澤明監督の映画「生きる」、やや最近では「県庁の星」(小説、漫画、映画)であろう。私は、後者は観ていないが、前者はリメイクされたものをテレビで観たことがある。メインテーマは、公務員がどうのこうのというより、末期癌の人間の生き様、ヒューマニズムだったように思う。2006年6月、私が初めて日テレ「太田総理」に出演した際、共演者のある男性が、同じ共演者の数名の現役東大生(官僚志望)に向かって「君たち、黒澤明の「生きる」を観なさい」と連呼していたので、いつか観ようとは思っていたものである。官僚志望の彼らに観せたがっていたこの男性の真意がよくわからない。
さて、「官僚たちの夏」。このドラマは、始まる前からとても楽しみにしていたものだ。TBSも、前宣伝にチカラ入れていたし、実際、時代セットも含め大変よくできている。キャスティングもすごい。佐藤浩市、堺雅人、高橋克実、佐野史郎、西村雅彦、杉本哲太、高橋克典、船越英一郎、北大路欣也・・・よく見る役者ばかりだ。しかし、視聴者はクールだねぇ。視聴率が初回こそ(前宣伝のためか)14.5%あったが、以後はどんどん減少し、この数回は7%台に落ち込んでいる。とても残念だ。官僚バッシング吹き荒れる昨今、かつてはこんな情熱を持った官僚たちがいたことを多くの人たちに知ってほしいと思うのは私だけではあるまい。
そもそも、城山三郎原作「官僚たちの夏」は、私が、東京大学工学部生だった22歳の頃、官僚を目指すきっかけの一つであった。当時発刊されて間もない頃、経済学部の友人に薦められて読んだものだ。そして、国家公務員試験に挑戦しようと決意した。専門外の経済学を半年ほど必死に勉強した。当然、希望省庁は通産省(正しくは通商産業省。今は経済産業省)だったが、ハードルは高く、ふられた。言い訳だが、霞が関トップクラスの人気官庁だったばかりでなく、「工学部卒」の人間を事務官として理工系出身の技官より人事上優遇することができないという考えもあったように思う。霞が関ムラでは、法律・経済出身の事務官が優位であることが当然視されている。ちなみに、各省庁の採用は、人事院の行う国家公務員試験とは別建てで、当該ドラマ「官僚たちの夏」の中でもあったように、人事担当官との面接でのみ決定されるのだ。
30年前は単行本だった「官僚たちの夏」が、数年前文庫本で出ていたのを、書店で見つけ、なつかしくなり、すぐ購入し、読破した。やはりおもしろかった。あれから数年、まさかTVドラマで登場するとは予想外であった。
このようにウン十年ぶりに世の中に再登場した作品といえば、本年1月~3月、日テレ土曜9時~に放映された「銭ゲバ」だ。原作はジョージ秋山の漫画である。「デスノート」のエルや「デトロイトメタルシティー」のクラウザーⅡ世とまた違った役回りの蒲郡風太郎(がまごおりふうたろう)をカメレオン俳優・松山ケンイチが見事に演じていた。私個人としては、「世の中カネだけではない」ということを教育する「反面教師」として、この不況下、多くの人がゼニに走るご時世に、誠に時宜を得た作品だと思うのだが、平均視聴率は10%足らずであった。更に、噂によると、人を殺す場面(設定)が多く(実際のそのシーンはほとんど出ない)残酷であるという理由で、PTAのおばさま方の苦情を受け、11回放映予定が9回に削減されたという。原作では、この蒲郡風太郎、終盤、ゼニのチカラでとうとう国会議員になる。政治家の腐敗した実態を知る私としては、この極めてリアルな話を放映してほしかった。原作どおりでなかったことが至極残念である。
それにひきかえ、同じく日テレ土曜9時~に以前放映された仲間由紀恵の「ごくせん」の異常な人気はなんだろう(平均視聴率28%だと!)。私は「ごくせん」は好きでない。言葉遣いが悪い、必ず殴り合う暴力シーンがある(おまけにストーリーも脆弱で稚拙)。こんな番組が大人気の平均的日本人の知性を疑う。なんで「銭ゲバ」がダメで、「ごくせん」はよいのだ?
〔私は、西日本出身者であるためか、「~ない」を「~ねー」、つまり「ai」を「ee」と発音するのはとても下品に聞こえる。たとえば、「知らない」を「知らねー」と言われるとひどく汚く感じる。西日本人(関西人)なら「知らん」、つまり「anai」を「an」と発音する。「行かない」を「行かん」と言う。古語の否定の助動詞「ぬ」に由来する。関西の言葉が日本語として正統なのだ。〕
「公務員ドラマ」から話が広がってしまった。もう一つの「再生の町」、これも秀作だと思う。財政破綻に直面した一地方都市を再生させるために奮闘する、市役所職員たちの姿を描いた物語である。主人公役の筒井道隆が熱演している。財政再建のため、病院や福祉施設の切り捨てまでをも考える公務員の苦悩がよく表現されていると思う。「地方公務員」といえばお気楽稼業と思われがちだが、こういう真摯な方々もいるのだろう。
ちなみに、私らの少年時代の大スターだったグループサウンズ、ザ・タイガースの名ベーシスト岸部一徳が、2006年フジテレビ「医龍」の野口教授役に続き、「再生の町」の中で重要な役をこなしている。沢田研二ほどのルックスに恵まれず、若いときは人気のなかった彼が音楽以外で役者としての才能を開花させているのだ。
【ついでに】
私は、なるべくTVドラマを観ないように努めている。なぜなら、観始めると、やめられなくなり、毎週観なくてはという、くだらない義務感が生じるからである。厳選し、週に1本か2本までとしている。この5、6年では、半年ものの「白い巨塔」(2003年~2004年フジテレビ)は原作が有名過ぎるので別として、2008年フジの「風のガーデン」が最高傑作だったと思う。名優緒形拳の「遺作」というだけでなく、末期癌の麻酔科医役の中井貴一の演技が光っていた。
現在放映中のドラマで上記2本の「公務員ドラマ」以外に、もう一つ観ているものがあった(あ、3本になっちゃった)。やはりフジで火曜9時~「救命病棟24時」だ。職業柄、つい「医療もの」は観たくなってしまう。このドラマは多くの人に観てほしい。救命救急の現場の重要性、大変さを理解できない国の施策の貧困さを訴える場面が多々あり、心底共鳴している。このドラマを観て救急医を目指す医学生が増えることを願うが、それより、世論を高めて、救急医の待遇改善を政治のチカラで実現し、せめて現役の救急医が辞めないような医療環境になってほしいものだ。