2011.04.10
・・・・・・・・・東日本大震災(4)
〈原子力で思い出すこと〉
工学部4年生のとき、某大手メーカーに就職内定していた同級生が「オレ、原発で働くんや」と話していた。その顔には、少し悲壮感があった。私も含め、ほかの友人たちも、内心「大変やなぁ」と感じていた。
放射線被曝の恐怖は、医学生のときに経験した。放射線医学(放射線で検査や治療を行う医学)の履修で放射線防護実習というのが義務づけられており、何日間か、放射性物質のある核医学施設に通った。防護服も着た。見えない、匂わない放射性物質に被曝しないよう神経を尖らせた記憶がある。
これまでの私の人生で、原発で働く人や放射線被曝の恐怖と接した印象深い経験は、この2度くらいだろうか。スリーマイル島やチェルノブイリは、対岸の火事くらいにしか思わなかった。
〈福島第一原発事故は人災〉
福島第一原発事故は、極めてショッキングだ。もちろん、巨大地震・巨大津波による被害も戦後最大の惨事だが、この原発事故は将来何十年にもわたって国民の健康に影響を及ぼしかねない「人災」であるだけに、私たちの憤りは頂点に達している。
この「人災」を惹起させたのは、昔からある政府と業界の隠蔽体質及び両者の癒着であることは明らかだ。
私が政府内の人間だった頃、(今回ほど深刻ではないものだが)情報を隠すことは、実際に幾度か経験した。その大義名分が「国民に無用な混乱・不安を起こさせるべきではない」ということであった。その精神は今も全く変わっていない。
東京電力の幹部は、歴代社長は生え抜きだが、副社長以下、通産省(現経済産業省)からの天下りが相当数いる。現役の官僚は、本省局長や事務次官まで上り詰めた先輩がいる組織に対して、制度上は指導する立場であるにもかかわらず強く物言いができない。このことも、私は、役人時代いやというほど経験したものだ。官僚社会というのは年功序列の最たるものであり、先輩はあくまで後輩の上の立場にある。自分のことを君付けや呼び捨てにできる先輩に強く言えない。だから、経産省は、東電にとって名ばかりの監督官庁となっていたのではないか。
〈「政・官・業・学」の「原子力ファミリー」〉
5年ほど前に『政治家がアホやから役人やめた』という本を書き、同著の中で、首都圏の水源である利根川上流の産業廃棄物不法投棄問題は、腐敗政治家と保身官僚と利益至上主義の業界の「政・官・業」=悪のトライアングルの仕業だと報じた。
今回は「政・官・業」に加えて、学者=「学」が加わる。原子力のような専門性の高い領域では、原子力工学の学者たちもこの悪のトライアングルに加わり「政・官・業・学」の「原子力ファミリー」を形成する。原子力発電がなくなれば、原子力工学研究のニーズや予算が激減する。だから彼らは「御用学者」となり、原発推進する政府の施策に荷担することとなる。要するに、電力業界という巨大利権に群がる商工族国会議員を筆頭とするこれら四者が強固な共同体を形成しているのだ。
〈唯一の被爆国が世界最大の放射能汚染国になるのか〉
政治家と官僚と業界(と学界)の癒着がいたる領域で蔓延っているのが我が国の現状なのだ。政府と東電が、国民の生命・健康より自らのメンツと利益を優先させた、その結果がこの放射能汚染恐怖なのである。
世界で唯一の被爆国が、戦後の経済復興の一役を担った原子力発電の扱いを私欲により杜撰にしたため、今後世界最大の放射能汚染国になるかもしれない。不可逆な事態を生じさせた政府と東電の罪は根深い。
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以上の内容を少し修正して、2011年4月10日付け愛媛新聞「道標」に掲載しました。
実際の記事は、別コーナー「愛媛新聞「道標」」に載せております。