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記事一覧

原子力安全監視の一元化・強化を

2011.04.10

・・・・・・・・・東日本大震災(5)


〈お粗末な原子力安全行政〉

そもそも、業界を規制する原子力安全・保安院と業界を振興する資源エネルギー庁が同じ経済産業省の組織というのにムリがある。

このような「規制」と「振興」の争いは、中央省庁間では頻繁に起こっている。例えば、食品に関しては、業界振興は農林水産省、業界規制は厚生労働省が担当し、私が農水省にいた頃、よく両省はケンカしたものだ。(BSEがきっかけで食品安全委員会ができたが、果たして国民の期待に応えているのだろうか)

しかし、同じ省庁の中でのケンカは馴れ合いになる。なにしろキャリア事務官は、同じ省内を数年ごとにあっち行ったりこっち行ったりと異動するため、つい最近までいた部署と真剣にケンカできなくなるものだ。つまり、保安院と資エネ庁は「なあなあ」になっていたのではないか。


〈文系エリートの面目躍如の西山審議官〉

 この数週間でテレビで見かける筆頭は、政治家では枝野幸雄官房長官、官僚では経産省原子力安全・保安院の西山英彦審議官であろう。現役官僚でこれほどテレビに映った人はいただろうか。

「審議官」というポストは中央官庁くらいでしか聞かないので、民間企業の方々にはわかりにくい「偉さ」だろう。中央官庁の官僚は、ヒラ→係長→課長補佐→課長→審議官→局長→事務次官というのが、通常の昇進コースだ(私は課長補佐で退官した)。民間企業によくある「部長」というポストがある部署もあるが、企業ほど一般的ではない。だいたい審議官というのは局長の次のポストと考えられている。

原子力安全・保安院のトップは「院長」(←病院長ではない)で、その下に次長、その下に5人の審議官がいるから、西山氏は同院でナンバー3か4当たりの地位なのだろう。その彼が今や同院の顔として、スポークスマンになっている。

一般のテレビ視聴者の中には、彼を原子力の専門家と勘違いしている人もいるだろう。(弁護士出身の官房長官も科学技術に詳しいとも思えないが)彼も、法学部卒の事務官で、つい最近着任するまで経産省通商政策局の審議官としてAPECやTPPなどを担当していたらしい(更に、その2年前まで資源エネルギー庁で原発振興の旗振り役である電力・ガス事業部長を務めていたようだ)。

 このように全く違う分野のポストに異動させられても、その日から、何年もそこにいるかのごとく言動するのが腕の見せどころで、経産省のみならず霞が関のキャリア事務官の「得意技」とも言える。とはいえ、専門性の高い原子力工学に関して法律事務官がどれほど理解しているのかはなはだ疑問である。


〈遅すぎる組織再編論〉

今回の大惨事に遭ってやっと政府内に保安院を経産省から分離する動きが出てきた。遅きに失した感は否めない。原子力安全行政の重要性・専門性に鑑みれば、(強い権限があるはずなのに)今回お粗末(弱体)ぶりを露呈した内閣府の原子力安全委員会と保安院を統合・一元化し、内閣府・各省庁から独立した強力な組織に再編すべきだ。

政府・東電の大罪

2011.04.10

・・・・・・・・・東日本大震災(4)


〈原子力で思い出すこと〉

工学部4年生のとき、某大手メーカーに就職内定していた同級生が「オレ、原発で働くんや」と話していた。その顔には、少し悲壮感があった。私も含め、ほかの友人たちも、内心「大変やなぁ」と感じていた。

放射線被曝の恐怖は、医学生のときに経験した。放射線医学(放射線で検査や治療を行う医学)の履修で放射線防護実習というのが義務づけられており、何日間か、放射性物質のある核医学施設に通った。防護服も着た。見えない、匂わない放射性物質に被曝しないよう神経を尖らせた記憶がある。

これまでの私の人生で、原発で働く人や放射線被曝の恐怖と接した印象深い経験は、この2度くらいだろうか。スリーマイル島やチェルノブイリは、対岸の火事くらいにしか思わなかった。


〈福島第一原発事故は人災〉

福島第一原発事故は、極めてショッキングだ。もちろん、巨大地震・巨大津波による被害も戦後最大の惨事だが、この原発事故は将来何十年にもわたって国民の健康に影響を及ぼしかねない「人災」であるだけに、私たちの憤りは頂点に達している。

この「人災」を惹起させたのは、昔からある政府と業界の隠蔽体質及び両者の癒着であることは明らかだ。

私が政府内の人間だった頃、(今回ほど深刻ではないものだが)情報を隠すことは、実際に幾度か経験した。その大義名分が「国民に無用な混乱・不安を起こさせるべきではない」ということであった。その精神は今も全く変わっていない。

東京電力の幹部は、歴代社長は生え抜きだが、副社長以下、通産省(現経済産業省)からの天下りが相当数いる。現役の官僚は、本省局長や事務次官まで上り詰めた先輩がいる組織に対して、制度上は指導する立場であるにもかかわらず強く物言いができない。このことも、私は、役人時代いやというほど経験したものだ。官僚社会というのは年功序列の最たるものであり、先輩はあくまで後輩の上の立場にある。自分のことを君付けや呼び捨てにできる先輩に強く言えない。だから、経産省は、東電にとって名ばかりの監督官庁となっていたのではないか。


〈「政・官・業・学」の「原子力ファミリー」〉

5年ほど前に『政治家がアホやから役人やめた』という本を書き、同著の中で、首都圏の水源である利根川上流の産業廃棄物不法投棄問題は、腐敗政治家と保身官僚と利益至上主義の業界の「政・官・業」=悪のトライアングルの仕業だと報じた。

今回は「政・官・業」に加えて、学者=「学」が加わる。原子力のような専門性の高い領域では、原子力工学の学者たちもこの悪のトライアングルに加わり「政・官・業・学」の「原子力ファミリー」を形成する。原子力発電がなくなれば、原子力工学研究のニーズや予算が激減する。だから彼らは「御用学者」となり、原発推進する政府の施策に荷担することとなる。要するに、電力業界という巨大利権に群がる商工族国会議員を筆頭とするこれら四者が強固な共同体を形成しているのだ。


〈唯一の被爆国が世界最大の放射能汚染国になるのか〉

政治家と官僚と業界(と学界)の癒着がいたる領域で蔓延っているのが我が国の現状なのだ。政府と東電が、国民の生命・健康より自らのメンツと利益を優先させた、その結果がこの放射能汚染恐怖なのである。

世界で唯一の被爆国が、戦後の経済復興の一役を担った原子力発電の扱いを私欲により杜撰にしたため、今後世界最大の放射能汚染国になるかもしれない。不可逆な事態を生じさせた政府と東電の罪は根深い。

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以上の内容を少し修正して、2011年4月10日付け愛媛新聞「道標」に掲載しました。

実際の記事は、別コーナー「愛媛新聞「道標」」に載せております。