2011.02.11
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・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(8)
〔第2案・提出案〕
医療産業の中核を担っている大手製薬会社は、現在厳しい状況にある。「医薬品の2010年問題」と呼ばれるもので、これまで各社の主力をなしてきた薬品の多くが、この数年以内に特許切れを迎えた、又は迎える予定なのだ。特許が切れてしまうと同じ有効成分を持つとされる薬品が別の会社が作って安価で販売できるようになる。これが「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」である。
医薬品は特許制度によって保護されており、製薬会社が特許申請し、認められた構造の化合物は、一定期間(通常20年)の間、他社が勝手に製造・販売してはならないとされている。しかし、この期間が経過した後は、他社が同じ構造の薬を販売することが許されるようになる。こうした後発医薬品は、臨床試験の巨大なコストの負担がないため、先発品に比べて安く販売できることとなる。
政府は、膨張する社会保障予算の拡大をなんとか食い止めようと、医療費の中で比重の大きい薬剤費を削減するため、後発医薬品のシェアを拡大しようと数々の措置を講じてきた。このため、先発医薬品から後発医薬品へのシフトが全国の医療機関で起き、先発メーカー各社は、その経営が一層厳しくなり、かといって新薬開発には膨大なコストと時間がかかるため、生き残りの知恵を絞った結果、既存の薬品の2種を合剤とし、新たに新薬扱いとして、当分ジェネリックができないようにする手段に訴えてきた。現在のところ、ARBという最も主流の降圧剤に利尿剤又はカルシウム拮抗薬という降圧剤を付加したものが6社からなんと13品目も出されており、更にはカルシウム拮抗薬+高脂血症治療薬というものまで登場しており、この「雨後のタケノコ」のような配合剤ブームは収まりそうもない。
いまのところ、メディアでは「今まで2つだった薬が1つに減った」「薬剤負担金も減った」と歓迎的である。本当に手放しで喜んでよいのか。
例えば「A剤+B剤」という合剤でコントロールしてきた患者が、生活習慣の改善により、血圧又はコレストロール値が少々下がってきた場合、B剤の成分をゼロにするのはちょっと怖い、「A剤+1/2×B剤」の強さにしてみたいと思っても、それに合致する合剤がない。となれば、「まぁ、今の強さのままでいいか」という判断が起こりかねない。つまり、当該患者は、適正な強さの合剤がないというだけの理由で、その後も数週間、その人の現状態にしてはやや強い薬剤を飲み続けることになる。こういう事態が、今、全国の病院・診療所で起きているのではないかと危惧される。
上述のとおり、生活習慣の改善の程度、あるいは季節(血圧が夏場に下がり、冬場に上がる患者も少なくない)により、疾患の状態は変化するものであり、それに合わせて処方薬剤はきめ細かく変化させていくことが(もちろん安定していれば変える必要はないが)我々医師の当然の責務だと思う。
「まぁ、今のままでいいか」と多忙な医師の怠慢感を増長させないためにも、製薬会社は、後発品対策で合剤を増やすことはもうやめてほしいものだ。とはいえ、しかし、製薬会社は、私的な株式会社であり、経営維持のため、このような「合剤戦略」を行うことを直ちに批判はできない。製薬会社をこのような窮地に追い込んだのは、厚生労働省・財務省の財政健全化至上主義による不適切な医療費削減策であることはいうまでもない。
〔第1案〕
医療産業の中核を担っている大手製薬会社は、現在とても厳しい状況にある。「医薬品の2010年問題」と呼ばれるもので、これまで各社の主力をなしてきた薬品の多くが、この数年以内に特許切れを迎えた、又は迎える予定なのだ。特許が切れてしまうと同じ有効成分を持つとされる薬品が別の会社が作って安価で販売できるようになる。これが「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」である。
財政健全化を至上命題とする財務省及び同省に首根っこを抑えられた厚生労働省並びに赤字減らしに躍起な健康保険組合のベクトルが揃ったところが「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」のシェアアップである。
医薬品は特許制度によって保護されており、製薬会社が特許申請し、認められた構造の化合物は、一定期間(通常20年)の間、他社が勝手に製造・販売してはならないとされている。しかし、この期間が経過した後は、他社が同じ構造の薬を販売することが許されるようになる。こうしたジェネリック医薬品は、臨床試験の巨大なコストの負担がないため、先発品に比べて安く販売できることとなる。
政府は、膨張する社会保障予算の拡大をなんとか食い止めようと、医療費の中で大きなシェアを占める薬剤費を削減するため、ジェネリック医薬品のシェア拡大のため、数々の措置を講じてきた(例えば、処方箋に医師が署名捺印しなければ薬局は後発品に変更できるなど)。このため、先発医薬品からジェネリック医薬品へのシフトが全国の医療機関で起き、先発メーカーの経営が厳しさを増し、かといって新薬開発には膨大なコストと時間がかかるため、生き残りの知恵を絞った結果、これまでの薬品の2種を合剤とし、新たに新薬扱いとして、当分ジェネリックができないようにする手段に訴えてきた。現在までのところ、ARBという現在最も主流の降圧剤に利尿剤又はカルシウム拮抗薬という降圧剤を付加したもの、更にはARB+高脂血症薬というものが処方可能となっており、その数や、現時点で7社、なんと17種にもなっている。
いまのところ、メディアでは「今まで2つだった薬が1つに減った」「薬剤負担金も減った」と歓迎的である。本当に手放しで喜んでよいのか。
例えば「A剤+B剤」という合剤でコントロールしてきた患者さんが、生活習慣の改善により、血圧又はコレストロール値が少々下がってきた場合、B剤の成分をゼロにするのはちょっと怖い、「A剤+1/2×B剤」の強さにしてみたいと思っても、それに合致する合剤がない。となれば、「まぁ、今の強さのままでいいか」という判断が起こりかねない。つまり、当該患者は、適正な強さの合剤がないというだけの理由で、その後も数週間、その人の現状態にしてはやや強い薬剤を飲み続けることになる。こういう事態が、今、全国の病院・診療所で起きているのではないかと危惧している。
上述のとおり、生活習慣の改善の程度、あるいは季節(血圧が夏場に下がり、冬場に上がる患者も少なくない)により、疾患の状態は変化するものであり、それに合わせて処方薬剤はきめ細かく変化させていくことが(もちろん安定していれば変える必要はないが)我々医師の当然の責務だと思う。
「まぁ、今のままでいいか」と多忙な医師の怠慢感を増加させないためにも、メーカー各社は、後発品対策で合剤を増やすことはもうやめてほしい。(更に、薬局もいままで以上に品目を置かなければならなくなり、在庫管理という本来の調剤業務以外の仕事が増大してしまっていることも認識しなければならないだろう。)医薬品メーカーの社会的存在意義は大きい。国民の生命の維持や健康の向上に大きく貢献していることは否定できない。ただ、会社の形態は、商法上の株式会社であり、利潤追求を行うものであり、国民の生命の維持や健康の向上という公的な役割となじませるべく、種々の法的規制が被されているのだ。このバランスが難しい。もっと根幹的なことをいうと、薬剤メーカーをこのような合剤戦略に追い込んだのは、冒頭述べた厚生労働省・財務省の財政健全化至上主義による不適切な医療費削減策であることはいうまでもない。
財政主導の医療行政が昨今の「医療崩壊」を招いたことは明白だが、このような財政によって歪められた医薬行政により新薬開発の遷延が起きていることに鑑み、ジェネリック偏重についても政府は方針を改めるべきではないだろうか。(1789字)
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上記と同様な内容を朝日新聞「私の視点」に1月9日に投稿したところ、1月22日に掲載されました。その間、修正につき何回かやりとりがありました。実際に手直しされて掲載されたものは、上掲のとおりです。(「メディア(その他)」のコーナーにも示します。)