・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(6)
〈日本脳炎ワクチンの事実上中止から5年〉
日本脳炎ワクチン接種と急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の因果関係が否定できない事例が認められたため、2005年5月、厚生労働省から「現行のワクチンでの積極的推奨の差し控えの勧告」が行われた。
このときは、より安全性が高いと考えられた新しいワクチンが1、2年で登場し、再び積極的にワクチンが行われることになるだろうと思っていた(事実、2006年夏に接種再開の予定だったが、治験において副反応が認められたため、治験が追加され、遷延したらしい)。
ところが、待てど暮らせど一向に出て来ない。やっと新しいワクチン(「乾燥細胞培養」日本脳炎ワクチン)が2009年6月に発売されたと思いきや、依然として積極的推奨の差し控えは継続されるという。今回の理由は、副作用問題でなく、メーカーの供給体制が整っていないからだという。こうして2010年春、供給体制が整い、やっと積極的推奨が復活する見込みとなった。そのブランク、なんと5年である。
〈臨床の現場で悩ましい問題とは〉
この5年間で、3歳の幼稚園児は小学2年生に、小学1年生だった子は小学6年生になった。さて、この春から接種が積極的に行われるとして、困る問題がいくつかある。
その前に、日本脳炎ワクチン接種の現行のスタンダードをお示ししよう。
A.1期初回 生後6か月から90か月(7歳半)未満(推奨は3歳)に1週~4週の間隔で計2回
B.1期追加 生後6か月から90か月(7歳半)未満で、1期初回終了後おおむね1年後(推奨は4歳)に1回
C.2期 9歳から13歳未満(推奨は9歳(小学4年生)) 1回
〔かつては、第3期 (14歳から16歳未満)というのがあったが、有効性に乏しいということで、2005年7月に廃止された。〕
まず、上記に該当しなければ、公費で行えないことがある。5年間もお上(かみ)から「待った」をかけられて待っていたのに、再開しようとしたら90か月超えているから1期のワクチンは公費ではできません、あるいは、13歳以上だから2期のワクチンは自費で受けてくださいというような非情なことを行政は言うのではないかという懸念である。
このようなおカネの問題だけではない。以下のような状態の子どもたちには、今後どのようなワクチン接種をして行くべきなのか。
①A. 1期初回で1回目を受けた後の4週間の間、2回目を受ける前に、積極的推奨が差し控えさせられた者
②A. 1期初回の2回は済んだものの、その後1年の間でB.1期追加を受ける前に、積極的推奨が差し控えさせられた者
③A.B.の1期は済んでいるものの、2期の接種の前に積極的推奨が差し控えさせられ、現在、高校生くらいの年齢に達している者
③については、1期終了からずいぶんと期間が空いている(最大で約14年となる)が、2期の1回接種で有効性が担保されるかという懸念がある。
もっと厄介なのは①と②のケースである。すなわち、それまでの接種は「水に流し」、振り出しに戻って今回の新しいワクチンをスタンダードどおり行うのか。ただ、例えば②の場合、スタンダードの合計接種回数より2回も多くなる。これで身体への影響は問題ないのかという懸念が生じる。
〈国に求めること〉
最年長で12歳11か月で上記Cの2期接種を予定していて中止した人は18歳になっている。したがって、18歳、すなわち高校生までの人は、すべて公費で日本脳炎ワクチンが受けられるようにしてほしい。「いのち」を大事にする鳩山政権なら、これくらいの国費を捻出して然るべきだと思う。
更に、前項で述べたように、複数回接種の途中過程において「待った」をかけられた人たちに、今後どういうスケジュールで接種を受けるのが最も適当であるかを示してほしい。医学的データに基づいた指導が望ましいが、前例がないだけに困難かもしれない。しかし、医療現場の医師たちに「丸投げ」されては困るのである。
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上記と同様な内容を朝日新聞「私の視点」に2月17日に投稿したところ、3月27日に掲載されました。その間、修正につき何回かやりとりがありました。実際に手直しされて掲載されたものは、「メディア(その他)」のコーナーに示します。