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無知蒙昧な政治家たちによる事業仕分け

2009.11.29

・・・・・・・・河辺啓二の政治・行政論(2)


〈「事業仕分け」ってなんだ?〉

新政権の行政刷新会議の事業仕分けで医師が処方する医療漢方薬を「公的医療保険の適用外」とする方向で結論が出た。当然、これに対し日本東洋医学会などから猛反発が噴出している。

新政府は、行政刷新会議、国家戦略室などと、一見カッコいいネーミングを呈しているが、「刷新」はともかく「戦略」とは恐れ入った。もちろん、warの意味でなく、strategy、tacticsの和訳から来ているのだろうが、「戦」の字が入っていることに違和感を抱く人が多いのではないか。日本の軍事情勢に過剰反応しがちな、漢字本国の中国あたりから、何のリアクションがないのが不思議に思える。今のところ、依然として、国家戦略室トップの菅直人大臣らは、なりを潜めているが・・・。

一方の「刷新」のほうは、この事業仕分けで、連日のように、テレビ、新聞等で報道されている。報道されている内容を見聞きするに、民主党国会議員をはじめとする「仕分け人」たちの無知と横暴さにはあきれてしまう。


〈教育や科学に費用効果原理を持ち込む愚かさ〉

科学の「か」も知らないような、例えばフラスコや試験管も触ったこともないようなド素人が科学技術予算を容赦なく削減していく。ノーベル化学賞の野依先生の「歴史という法廷に立つ覚悟はあるのか」という言葉は、見事だ。「歴史という法廷」という(われわれ凡人が思いつかないような)言葉が出るとは、さすがはノーベル賞科学者だ。我が国が、曲がりなりにも世界の先進国の一員であるのは、広くはない国土、乏しい天然資源の中で、優れた科学技術を駆使し、国民が勤勉に働いてきたからではないか。自然科学の研究に収益性なんか求めるバカ国会議員を選出したわれわれ国民も悪いのだが。

〔野依先生がかような名言を吐いたが、オールドロックンローラー内田裕也もいいこと言った。彼は、行政刷新会議の事業仕分け最終日となった27日、当会場を見学に訪れた。“ロック界代表”として傍聴し「自分らの給料下げろっていうんだよ」など“裕也節”を全開した。たしかに、国会議員には、一人当たりなんと年間3400万円以上もの歳費が税金で支払われている。内田氏の言うように一人百万円でも削れば、全体で何億円もの「人件費」が浮くことになる。この発言に拍手喝采した国民は多いのではないか。〕

教育も同様に費用効果が見えにくい。「高校授業料無償化」よりやらなきゃいけないことが山ほどあるのではないか。私が農林水産省OBなので農業予算を庇う気持ちがあるわけではないが、農業も、収益性にはなじみにくい面があることを理解してもらいたいものだ。更に言うと、医療・介護・福祉も収益性うんぬんの議論になじまないことは当然なのだが・・・。


〈外務省の在外公館予算見直しは評価できる〉

 事業仕分けの会場が、印刷局の体育館というのが、いかにも国民ウケを狙ったような気がする。まるで、村民か町民の集会場のようだ。ホテルといったおカネのかかる場所ではないですよ、という新政権の精一杯のアピールなのだろう。ただ、テレビ放映の際、注意して見てみると、事業仕分け人のおエラ方だけ立派なソファーチアーに座り、叩かれ役の官僚たちは折りたたみ式の簡易椅子に座っていることがわかる。まぁ、ロコツなものですなぁ。

あほらしい結論の多い事業仕分けだが、一つ賛同するものがあった。外務省関連予算だ。拙著『政治家がアホやから役人やめた』でも糾弾した在外公館の贅沢な予算にチェックが入ったのだ。自民党政権下では、手をつけられなかったものだ。外国のことはよくわからないというのがオモテ向きの理由だが、なんのことはない、在外公館とは、自民党のセンセイ方が「海外視察」の名目で外国を訪れた際の「国立交通公社」、しかも、全額税金でまかなう、無料の旅行サービス社なのだ。政治家たちへの接待は、泊まりたいホテルの部屋、行きたいレストラン、乗りたい特急車のお世話に加えて、更には高級売春婦の斡旋までさせられていたようだ。さて、民主党政権下、このような多くの国民が知らない破廉恥な「事業」は消失したのだろうか。


〈財務官僚たちの高笑いが聞こえてくる〉

 「負け組3省」という言葉がある。新政権で叩かれる3省庁のことで、私の古巣・農林水産省と公共事業の総本山・国土交通省、そして最大予算を抱える厚生労働省だ。そのとおり、これら3省は大負けしているが、ひとり勝ち組で我が世の春を謳歌している省庁がある。財務省だ。政権を初めて奪取し、与党経験のない、民主党にとって、すべての省庁を「敵」にするのは、得策ではない。そこで、「省庁の中の省庁」財務省を取り込み、タッグを組むこととした(財務省大物OBの「天下り」を特別扱いで容認しているしね)。
財務省は、なにしろ、国税徴収権と国家予算編成権を持つため、他の省庁とは全く別格だ。そのことで、一般省庁(その他大勢の一つ)・農水省にいた私は、官僚時代、当時の大蔵省に強い劣等感と憎悪を抱いたものだ。(財務省別格論は、私と同様、東大理系出身で、私と同じ年に同じ「経済職」で大蔵省に入省した高橋洋一氏も、著書の中でよく述べている。最近においては、彼は「『国家戦略室』や『行政刷新会議』も財務官僚に占拠された」と表現している。)

 霞が関の全省庁の予算査定をする財務省であるから、主計局の各担当者は各省庁の事業内容にもかなり精通している。主計局の中に、「農林係」「公共事業係」などと省庁別に主計官、主査が分かれており、いつでも他省庁の担当者を呼びつけて情報を得ることができる。拙著『政治家がアホやから役人やめた』でも述べたが、主計局の係長クラスが他省庁の課長補佐・課長クラスを平気で呼びつける。私は見たことがないが、机の上に脚をのせたまま、対面する他省庁の官僚にお説教をする尊大な大蔵官僚もいたらしい。


〈「現場」を知らない政治家・官僚に、政治・行政をすべて任せていいのか〉

 今回の漢方薬保険除外論も、財務省のシナリオどおりであることは明白だ。昔から、漢方薬、湿布薬、うがい薬、ビタミン剤は、「保険から除外せよ」と一部から言われ続けてきた。しかし、保険適用が継続してきたのは、業界の反論だけでなく、それなりの理屈があったからであろう。バイアグラやプロペシアに保険が適用されないのは納得するが、これらの薬剤は、保険診療の埒(らち)内にして整合性がとれるものだ。

要するに、医療現場を全く知らない財務官僚と民主党議員の戯れ言だ、と言いたい。まぁ、厚生労働官僚も医療現場を知らなさ過ぎて困るのだが。

医療だけではない。教育も、農業も、とにかく「現場」に疎い官僚・政治家が、世の中を動かしている・・・。

そこで、私は提言する。政治家は選挙の洗礼を受けるのでしかたないとして、行政官は、ある一定割合以上の人が「現場」経験者でなければならないとする制度はできないものか。厚生労働省なら、臨床医や介護福祉士、農林水産省なら、農業者や漁師、国土交通省なら、トラック運転手や建設現場担当者とか・・・。

加山雄三は70歳代の星

2009.11.29

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・・・・・・・河辺啓二の音楽論(2)

11月23日、東京・中野サンプラザの加山雄三withザ・ワイルドワンズコンサートツアー「湘南 海 物語 オヤジ達の伝説」に行って来た。一人で観る(聞く)のもナンなので、いつも一緒に外出する十歳年下の妻をやや強引に誘って行った。加山雄三が72歳と聞いて「親と同世代じゃ、ほとんど曲知らない」と言うので、コンサート1週間前に「加山雄三グレイテスト・ヒッツ」というCDを買い求め「予習」させておいた(コンサートに来て知らない曲ばかりだとつまらないものですよねぇ)。
観客は、予想どおり、平均年齢60歳代後半といったところか。中には杖をついてやっと歩行されるご老人もいた。妻がyoungestに近いほどであった(笑)。


〈私が初めて加山雄三を聞いた頃〉

加山雄三が映画デビューしたのが1960年の23歳時、歌手デビューしたのが翌61年らしい。私の記憶にあるのは、小学生だった1965年~66年の大ヒット曲「君といつまでも」だ。当時、レコード盤ならぬソノシート盤(赤色でペラペラの薄さのもの。若い人はわからないだろうな)で聞いていた。その頃、漫画雑誌の通信販売で一枚200円くらいでソノシート盤が購入でき、長兄の安物のポータブルレコードプレイヤーで聞いたものだ。カップリング曲は「夜空の星」だった。


〈幻のレコード大賞「君といつまでも」〉

1965年12月に映画『エレキの若大将』主題歌として発売された「君といつまでも」は350万枚の大ヒットになり、翌66年の第8回日本レコード大賞の大本命とされていたが、結局大賞は同曲に比べ売り上げ面で劣る橋幸夫の「霧氷」が受賞することとなり、「君といつまでも」は特別賞に留まった。このことについて、長兄から「加山雄三は、本職が歌手でなく俳優だから」落選したらしいと聞いたことを覚えている。


〈私にとって2度目の加山雄三ブーム〉

 特に加山雄三の映画も見ることもなく、中学、高校と進み、再度、加山雄三の曲を口ずさむようになったのは、大学一年生の二十歳ころだった。その頃、ベスト盤とともに、新作「海 その愛」のレコードを買い、何度も聞いた。楽譜本も買って、ヘタなりにギター弾き語りしたものだ。当時、社会でも加山雄三がちょっとしたブームだった。

 多くの方々はご存知だろうが、彼は、あのユーミンより、桑田佳祐より、ずっと前の時期から自ら作曲して自ら演奏して歌う、日本の「シンガーソングライター」の草分け的存在なのである。作曲者としての名前は「弾厚作」。


〈中年になって聞く(歌う)加山雄三〉

1989年、結婚し、医学部生として新生活に入った私だが、その頃大好きだったTV番組が日本テレビの「知ってるつもり?!」だった。非常に優れた番組で、歴史等いろんなジャンルで有名な人物を毎回ひとり採り上げていた。基本構成は、対象となる人物の再現VTRを見ながら出演者がコメントするというものであった。採り上げられる人物については、一般的に認知されている事柄以外の意外な一面にスポットを当てようとした構成を取っており、従来の既成の観点とはひと味違った観点で楽しめた。司会は関口宏で、加山雄三は、レギュラーパネラーのリーダー的な役割を果たしていた。杉原千畝など、番組放送当時、一般にはあまり知られていなかった人物の功績や活躍を取り上げることもあり、視聴者の中には、番組を観たことでそれらの人物の名前を知ったという者も多いという(恥ずかしながら、杉原千畝については、私もその一人)。

加山雄三の曲は歌いやすい。ご本人が歌いやすいように、キーを高くしていないし、音域も広くしていないからだ。だから、私は、彼のヒット曲をほとんどカラオケで歌える。私がカラオケで歌う邦楽といえば、加山雄三とタイガース等グループサウンズとアリスくらいかなぁ。


〈加山雄三は中年・老年の星だ!〉

 さて、コンサートに話を戻そう。72歳という御年なのに、声量に衰えは全くなかった。考えるに、サイモン&ガーファンクルが68歳、ポール・マッカトニー67歳、ミック・ジャガー66歳より、何歳も上なのだ。やはり、加山雄三はスーパースターだ。70歳過ぎても新曲をリリースしている。

コンサートの中では、「弟子」のワイルドワンズの曲は「思い出の渚」しか知らないとさかんに揶揄していたが、彼一流の可愛がっている弟分へのジョークだろう。
コンサートでは、以下のとおり、多くのヒット曲を披露してくれた。

加山雄三は、
「海 その愛」、「二人だけの海」、「ある日渚に」、「光進丸」、「夜空の星」、「蒼い星くず」、「夕陽は赤く」、「夜空を仰いで」、「お嫁においで」、「想い出の渚」、「君といつまでも」、「ぼくの妹に」、「サライ」、「旅人よ」、「恋は紅いバラ」など。
(私のよく知る曲で歌われなかったのは「霧雨の舗道」「白い砂の少女」「美しいヴィーナス」くらいかな)

加瀬邦彦とザ・ワイルドワンズは、
「白い水平線」、「愛するアニタ」、「青空のある限り」、「夕陽と共に」「思い出の渚」など。

更に、加山雄三が、次の洋楽を歌ったのは意外だったが、もともとプレスリーやビートルズの影響を受け、英語も堪能となれば、当然かと・・・。
SOMETHING(もちろん、ビートルズの曲)
AMAZING GRACE
MY WAY

新型インフルエンザワクチンの行方(2)

2009.11.29

・・・・・・河辺啓二の医療論(2)

初の理系宰相の新政権に期待した医療行政なのだが、早くもオソマツさを露呈している。国だけでない、地方公共団体も、そして医師会も。新政権医療政策の喫緊の課題が新型インフルエンザ対策だが、そのワクチン施策は、あまりに「遅拙」だ。


1 供給が少ない!
半年も前から、日本中で大騒ぎとなりながら、やっと新型インフルエンザワクチンができ、供給できるようになったのが10月。被接種者のトップバッターとして選ばれたのが、医療従事者で、10月19日から始まったと報じられた。
ところが、私ら地方の診療所の手元に届いたのは10月の終わりで、しかも要求した人数分にはほど遠く、次回の、喘息や糖尿病等の基礎疾患を有する優先患者の分を充てざるを得ない事態となった。
ワクチン供給が少ないのは、私ら小規模医療機関だけでなく、入院設備を持つ総合病院も同様のようだ。例えば、つい先日、ある総合病院勤務の看護師が「医療従事者だから優先して接種してほしい」と私の診療所に来院した。聞いてみると、供給されたワクチンは、医師、外来担当看護師だけで終わってしまい、自分らのような病棟担当看護師まで回らなかったという。同情し、接種してあげたものだ。


2 供給が遅い!――なぜ集団接種を推奨しないのか
今、新型インフルエンザに罹患した患者で、全国の病院、診療所はごった返している。同時に、喘息や糖尿病など持病を有する患者、年少者への優先接種が行われている。従来の季節性インフルエンザワクチンは、毎年流行期の冬の始まる前の10月、11月に行われていた(今年もそうだが)。ところが、今回の新型インフルエンザワクチンは、流行期の真っ只中に行われているのだ。要するに、40℃近い発熱で新型インフルエンザに罹患した患者が何人もいる場所で、健康状態にある人がワクチン接種の順番待ちをしていることになる。もちろん、病院側は、発熱者を待合室と別の部屋に入れたり、駐車場の車内で待機させたり、最大限の工夫をしているが、限界がある。特に小規模の診療所にいくつもの待機部屋はない。
健康状態のよい人だけが、定められた時間帯に集まって、例えば地域の保健センターで接種すれば、罹患のリスクがなくなる。ところが、国、県は、そのような集団接種の推奨をしない。すべて市町村にお任せの構えなのである。地域によっては、保健センターや保育園、幼稚園、小学校での集団接種が行われているようだが、今のところ少数派のようだ。


3 助成が全くなし
「こども手当」でカネばらまくくらいなら、ワクチンの助成くらいできないものか。一人3600円×1千万人=360億円の予算は、全額とするととても捻出できないだろうが、一部助成してもよいのではないか。やはり、国は地方公共団体に「丸投げ」しており、ごく一部の市町村で助成されているやに聞いている。
そもそも国が価格(1回目3600円、2回目2550円)を設定し、クスリ問屋からの納入価まで決めていながら、全く公費負担がない。こんなこと、今までのワクチンであっただろうか。BCG、ポリオ、麻疹風疹ワクチン、三種混合(DPT)ワクチン及び日本脳炎ワクチンは、公費で行われ、該当年齢の患者は負担なしだ。「任意」と呼ばれる、おたふくかぜや水痘のワクチン、そして最近行われるようになったヒブワクチンは、患者が全額負担で、価格は病院の自由設定となっている。これら従来のワクチン価格施策は、いちおうの説得力がある。ところが、今回の新型ワクチンに関しては、公費ゼロなのに価格が一律設定されており、???と感じざるを得ない。


4 10mlバイアルを考えた犯人は誰だ?
国会で、長妻厚生労働大臣が、前大臣の舛添さんの質問に対し、10mlバイアルのほうが(生産が)低コストだからと答弁したらしいが、いかにも年金問題には強いが、医療問題に疎い長妻さんらしい。もちろん、厚生労働省の官僚(医系技官を含む)の意見も踏まえてのことだろうが、医療行政に係る官僚も政治家も、あまりに医療の現場を知らなさ過ぎる。成人で0.5mlだから、1バイアルで20人を当日中に使いきらなければならない。例えば、15人しか来なければ、残りの5人分は廃棄される。もし22人だったら、(2バイアル開けて)18人分廃棄となる。供給量が少なくて困っている状況でこのようにしなさいと「お上」はおっしゃるのであろうか。
当初の計画では、ワクチン供給後半戦で、10mlバイアルをどんどん増やすようだったが、あまりの不評で、来年になると10mlは止めることが決まった。いつも「後手後手」の日本の行政は、新政権になっても、ちっとも変わらない。


5 返品ができない新型ワクチン
 注文しても、数割しか入荷できない。もし、残った場合、返品不可、というのが薬剤問屋からの指令だ。こんな商取引、あるのだろうか。患者さんからワクチン予約をもらっても、都合でキャンセルされることは多々あるものだ。しかし、医療機関から問屋にキャンセル返品はできない。医療機関によっては、患者さんから「前払い」方式をとるなどの対策を講じているところもあるらしい。
 要するに、国は、新型インフルエンザワクチンに関する経済的リスクをすべて医療機関に負わせようとしているのだ。「医は仁術」だからそれくらいやれ、というのだろうか。それなら、そうと正直に「お願い」してほしいものだ。われわれ民間の医療機関は、公共的な「医療」を行う際、どうしても「経営」という視点を考えざるを得ない。いくら公共の福祉に資するため、とはいえ、赤字とわかる事業を行うことはできない。「今回の新型インフルエンザだけは、(国家的な緊急課題だから)経営を度外視してくれ」と政府から日本医師会に協力要請したらどうだろうか。