・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の音楽論(1)
10月3日、東京・国際フォーラムの松任谷由実「TRANSIT2009」最終公演に行って来た。今年4月から始まった同コンサートツアーのまさに最終日なのだが、なんと私は強運なのでしょう、その「千秋楽」に最前列のしかもド真ん中の席であったのです。
〈私が初めてユーミンを聞いた頃〉
いったいいつから私はユーミンを聞くようになったのだろう。私にとってユーミンは「荒井由実」だった。四国の高校を卒業し、東大に落ち、浪人していたときだろうか、それとも、一浪の後東大に入って間もない頃だろうか、当時中央大学の学生だった実兄の持っていた「ひこうき雲」「ミスリム」「コバルトアワー」の3枚のLPを何回も聞いたものだ。もちろん、その頃CDなんてあるはずがなく、レコード盤に針を落として、あの「シャー」という音とともにユーミンの音楽を楽しんだ。
麻雀にうつつを抜かしていた大学一年生の頃、シングル「あの日にかえりたい」が大ヒット、続く「翳りゆく部屋」もヒット。大学の漫画倶楽部の汚い部室で下手なギターを弾きながら「翳りゆく部屋」、そしてバンバンに提供されヒットした「いちご白書をもう一度」を歌ったものだ。
1970年代の若い大学生の愛好する日本の音楽といえば、小椋桂と荒井由実である。70年代前半から売れていたこの2人に遅れること数年、70年代後半からブレイクしてきたのがサザンオールスターズであった。思うに、自ら曲を作り歌い演奏するアーティストで、30年以上も日本の音楽シーンのトップを維持しているのは、ユーミンとサザン(桑田佳祐)が双璧であろう。カラオケの歌本に掲載されている彼らの曲の多さに驚嘆するのは私だけではないだろう。ちなみに、有線放送USENのチャンネルリストには膨大なチャンネル番号が載っているが、個人アーティストだけで1つのチャンネルを占めるのは日本人で4組だけ(美空ひばり、石原裕次郎、サザンオールスターズ、松任谷由実)、外国人で6組だけ(エルビスプレスリー、ビートルズ、カーペンターズ、エリッククラプトン、ボブデュラン、ローリングストーンズ)である。
〈ユーミンはマイケルジャクソン並みのエンターテイナーか〉
おじさん医学生だった頃から、好きな外国人アーティストが来日した際、東京ドーム、日本武道館、東京国際フォーラムなどで行われるコンサートに行くようになった。ポールマッカートニー、ローリングストーンズ、サイモン&ガーファンクル、(ビージーズの)ロビンギブ、アース・ウィンド&ファイア、ボブディラン、エルトンジョン&ビリージョイルといったところか。
そのかわり、邦人アーティストのコンサートは、ほとんど行ったことがない。数年前に地元群馬県の市民公会堂の堀内孝雄のそれを見たくらいだ。このとき、アリスが好きな私は「なつかしの」アリスソングを期待したのだが、それはわずか数曲で、ほとんどソロになっての演歌調の曲であった。ちょっと残念だった。
ファンが聞きたい昔のヒット曲はほとんど「封印」して、なるべく新しい曲を披露するという姿勢は「現在進行形のアーティスト、COMPOSER」としてのプライドなのだろう。今回のユーミンのコンサートでも、私のよく知る「荒井由実」の曲は少なく、新作アルバム「そしてもう一度夢見るだろう」の曲をはじめ1980年代以降の曲を多く披露した。通常、知らない曲が多いコンサートは退屈になるものだが、全くそうではなかった。
一つには、新しい曲なのに、昔と変わらないユーミンの作風であるため、初めて聴いたようには思えない親しみが沸いてくる曲が多い。作風が変わらないといっても、陳腐さは微塵も感じられないのだ。加齢現象で今時の歌はなかなか覚えられない私でさえも、不思議と口ずさめてしまうのである。
もう一つは、ユーミンが見せる(魅せる)ショーであるということだ。個性的なメンバー揃いのバックバンド(特にパーカッションが印象的)、バックコーラスを従え、何度も衣装替えし、踊りあり、フライ(ピアノ線で吊っていた)あり、マジック(火が燃えたり、姿が消えたり)あり、・・・と全く退屈さを感じさせない。
〈他のアーティストたちのコンサートとの比較〉
このユーミンのコンサートの直近に観たコンサートは、7月11日、東京ドームのサイモン&ガーファンクルだが、彼らはほとんど「定位置」で歌うばかりであった。
ポールマッカートニーも、おおむね「定位置」だったが、ローリングストーンズのミックジャガーは、60歳代でありながらステージの端から端まで駆けて歌うなど、サービス精神は旺盛だった。
加齢による歌声の劣化は、いたしかたないと思う。55歳のユーミンの歌声は劣化していなかった。かつて東京ドームで観たポールマッカートニーも、また、ミックジャガーも往年の歌声であった。ちょっと淋しく感じたのは、数年前東京国際フォーラムで観たロビンギブと今回のガーファンクルだ。ファルセットで「Staying Alive」「Night Fever」など大ヒット連発していたビージーズだが、ロビンギブは、加齢のためかファルセットなしで「地声」で歌っていた。ちょっと盛り上がりに欠けた。
今回のサイモン&ガーファンクルは、13年前来日の際より多く歌ってくれた(前回はガーファンクルの体調不良のため曲数が少なかった)。ただ、68歳という年齢で、20歳代に発表した「明日に架ける橋」「スカボローフェア」の美しい高音を求めるのは酷であろう。サイモンはもともと美声ではないで、若い頃と大きな変化がないように聞こえるが、ガーファンクルの声は、どうしても往年の美声より「かすれた」声になっていたことは明らかであった。
〈ユーミンコンサートの曲は・・・〉
話が逸れた。最後にコンサートで披露された曲目を紹介する。ともかく、その歌声、動き、容貌の若々しさに脱帽。
航海日誌・・・・・・・・・・・・・・・・COBALT HOUR(1975)
ベルベット・イースター・・・・・・・・・ひこうき雲(1973)
ピカデリー・サーカス・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
時のないホテル・・・・・・・・・・・・・時のないホテル(1980)
Bueno Adios・・・・・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
まずはどこへ行こう・・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
黄色いロールスロイス・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
幸せになるために・・・・・・・・・・・・acacia(アケイシャ)(2001)
やさしさに包まれたなら・・・・・・・・・MISSLIM(1974)
ハートの落書き・・・・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
夜空でつながっている・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
自由への翼・・・・・・・・・・・・・・・U-miz(1993)
青いエアメイル・・・・・・・・・・・・・ OLIVE(1979)
ジャコビニ彗星の日・・・・・・・・・・・悲しいほどお天気(1979)
Flying Messenger・・・・・・・・・・・・そしてもう一度夢見るだろう(2009)
守ってあげたい・・・・・・・・・・・・・昨晩お会いしましょう(1981)
Forgiveness・・・・・・・・・・・・・・A GIRL IN SUMMER(2006)
14番目の月・・・・・・・・・・・・・・THE 14th MOON(1976)
水の影・・・・・・・・・・・・・・・・・時のないホテル(1980)
ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ・・・・VOYAGER(1983)
埠頭を渡る風・・・・・・・・・・・・・・流線形'80(1978)
DESTINY・・・・・・・・・・・・・・・悲しいほどお天気(1979)
二人のパイレーツ・・・・・・・・・・・・U-miz(1993)
卒業写真・・・・・・・・・・・・・・・・COBALT HOUR(1975)