数学界以外で活躍する東大数学科卒
・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の社会論(31)
〈数学科卒の経済学者が日銀総裁に〉
植田和男氏が日本銀行総裁になる。日銀総裁といえば、大蔵省(現財務省)OBか日銀生え抜きが就任するポストと思っていたら、なんと学者が!と多くの国民が驚いている。官僚っぽくなく学者然とした風貌がいい。今後の金融施策の手腕に期待するものである。
〈日銀に関する思い出は乏しい〉
日本銀行に関する私的思い出は殆どない。農林水産省の官僚だったとき、4年先輩の人から「私は日銀にも内定していたんだけど、官僚になりたくてここに入ったんだ。でも、日銀のほうがよかったかなぁ」などと述懐していたことを覚えているくらい。彼は東大法学部卒であり、当時の東大法学部生にとっては中央官庁か日銀かの選択があったのだろう。理系学部から試験で文系官僚に潜り込んだ私にはそんな選択肢はなかった。
〈経済学には数学が必要〉
さて、その植田氏、学歴が「東京大学理学部数学科卒業、東京大学経済学部学士入学」である。レベルは大幅に低いが、私も、国家公務員試験に向けて経済学を独学したとき、確かに数学の知識は多用したものだ。「数学」→「経済学」という流れは極めて自然だ。代表選手は、やはり東大理学部数学科卒の宇沢弘文先生(故人)だろう。専門が数理経済学で、たしかノーベル経済学賞候補になることがあったと思う。私が工学部生でこっそり経済学を勉強していた頃、工学部の講義をさぼっては経済学部の講義を聴きに行ったものだ。印象に残っているのは、館龍一郎先生の「金融論」くらいで、他の講義は覚えていない。当時、宇沢先生も経済学部教授で講義があったはずだが、残念ながら同先生の講義を聴いた記憶がない。
〈東京大学理学部数学科〉
東京大学理学部数学科といえば、そりゃとんでもなく数学ができる大秀才、天才が全国から集まる。私が理科Ⅰ類に在学していた頃の記憶では、理Ⅰでもトップクラスの成績がないと理学部の物理学科や数学科に進学できなかったはずだ。その数学科だが、キャンパスは本郷でなく駒場だということは卒業後ずっと後で知った。知り合いに数学科生ほどの秀才がいなかったからか・・・。
さて、「数学のノーベル賞」と称されるのが「フィールズ賞」。ノーベル賞(1901年)より少し後の1936年スタートだが、4年に1度とか、40歳以下とか制限が厳しい。その日本人受賞者第1号が東大数学科卒の小平邦彦先生(1954年受賞。故人)ではあったが、その後の受賞者はノーベル賞よろしく京大卒者が東大卒者を凌駕している。広中平祐氏(1970年)と森重文氏(1990年)である。(ちなみに、ノーベル賞自然科学部門では、京大卒者8名、東大卒者6名である。)
〈アタマ切れすぎ髙橋洋一さん〉
植田氏と同じ「東京大学理学部数学科卒業、東京大学経済学部学士入学」といえば、同氏より4年ほど後輩に当たる髙橋洋一氏がいる。彼は、大蔵官僚となり、その後内閣参事官として政府の中枢で大活躍している。彼とはテレビ番組で共演したことがあり、同じ東大理工系出身のキャリア事務官として認識してもらったと思う。
10年以上も前の話だが、警察のミステイクで「ドロボー扱い」され、(元政府要人だけに)大きく報道された。ちょうどまだそのほとぼりが冷めない頃、蟄居中の髙橋さんに、(「今だったらヒマで答えてくれるかもしれない」と思い)当時数検1級の壁に苦しんで何時間考えてもわからない数学の問題をメールで教えを請うたことがある。驚いたことに、あっという間にその解答をメールで返答してくれたのだ。まさに脱帽。彼の異次元のアタマのよさに感服した次第。
後に共演したテレビ番組「そこまで言って委員会」(元官僚の集まり)で、このことを喋るべきだったと収録後後悔した。
メディア出演(TV出演) | 河辺啓二 kawabekeiji.com
司会の辛坊治郎さんに
「河辺さんは東大医学部ですよね。東大医学部といえば、日本で一番難しい試験ですよね。」と持ち上げられたとき、
「いやいや私なんか大したことありません。ここにいる髙橋さんなんかに比べれば」と言ってこの数学メールの話を公開して
「髙橋さんは官僚なんかに成り下がるより数学者になっていれば、フィールズ賞がもらえたのではないでしょうか」
とでも発言していれば、辛坊さんにもウケて編集カットされずに放映されていたかも・・・。
東京大学理学部数学科卒業の数学者であり、かつ著作がすばらしいのが、藤原正彦氏だ。200万部を超える大ベストセラーの「国家の品格」のほか「祖国とは国語」「本屋を守れ 読書は国力」など多数の名作を著している。
ドイツ近現代史は興味深い | 河辺啓二 kawabekeiji.com
著書の中で「論理より情緒」「英語より国語」「民主主義より武士道」と説いているが、特に名言と思われるのは、小学校からの英語教育必修化を批判し「一に国語、二に国語、三四がなくて五に算数。あとは十以下」という国語教育の充実を訴えている言葉だ。アメリカ帰りで英語堪能な数学者の主張だけに納得させられるものである。また、「インターネットで教養は育たない」という意見にも頷いてしまう。
〈頑張れ、鶴ちゃん〉
東京大学理学部数学科卒業で数学界以外で活躍する4人めは、ぐんと若返ってTBS「東大王」の鶴崎修功君である。「東大王」は好きな番組で、仕事があるためリアルタイムには見られないので、毎回録画して、その日の夜などに観ている。出演者たちより早く解答できたときは快感だし、「超難問」をあっさり答える鶴ちゃんを大将とする「東大王」の面々にはいたく感心してしまう。最近は「東大王」に対する「芸能人チーム」にもえらく強いタレントも増えてきて「へぇ~」と感じさせられることも多くなった。
「東大王」に謁見 – – 昔かんりょう今いりょう – (kawabekeiji.com)
コロナ禍前の2019年秋の鉄門旅行(東大医学部同窓会旅行)の際、当時の「東大王」大将の水上颯君と宴席でお話したときのこと。同い年の鶴ちゃんについて
「彼はずっと東大に残って「東大王」を続けるんじゃないかな」
と語っていた。当時、水上君は医学部6年生、鶴ちゃんは大学院修士課程2年生だった。翌2020年春、水上君は医学部と「東大王」を同時に卒業して医師に。鶴ちゃんは博士課程に進んで3年経ち、2023年春、大学院と「東大王」を同時に卒業(正しくは、大学院は「卒業」でなく「修了」という)ということである。
「東大王」で見せてくれた天才ぶり、異能ぶりを本業の数学で遺憾なく発揮し、東大卒2人めのフィールズ賞を受賞されんことを祈念する次第である(40歳までまだ十数年もある)。