二重苦の開業医
・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(31)
私たち医療界の末端にいる町医者は、新型コロナウイルスによる二重苦に苛まれている。まず、日常の診療においてウイルス感染の患者さんに接しているかもしれないという恐怖がある。無症状でも感染力がある可能性があり、ましてや医者にかかるのは体調不良者が多いから感染者の可能性が上がる。「37.5度以上4日間」云々で保健所に電話しても、多くは近所等の医者にかかるよう指示されるらしい。「接触者外来」のある病院が手一杯という事情があるからしかたないのだろう。
次に、診療所経営上の厳しさだ。私たち個人医院は、大きな公立病院と違って風評被害に晒されやすい。現に、つい最近のことだが、近所の保育園の保育士さんの感染が公表されたら、私の診療所にかかったことがないにもかかわらず、当院にかかったというデマがあっという間に流れ、当院の患者数は激減している。隣町のM医院の先生らがクラスター感染となり休診となっているが、医師や職員が感染者でなくとも感染した患者さんが一度でも受診していると聞くと多くの患者さんはそこの医院を避けようとするのだ。
行政は私たちを助けてはくれない。軽度の体調不良ながら責任感から往診等をしていたM医院の医師を知事は「誠に遺憾」と非難した。既に、発熱者の受診を拒否している町医者もいるという。今後同様の対応をする個人医院が増える可能性がある。まさに「地域医療崩壊」だ。
行政が、発熱者等当該ウイルス感染疑い専門の外来を臨時的に設置できないのか。感染リスク、経営リスクに晒されている私たち末端の医療者を行政は助けてくれないのか。
以上の文章を朝日新聞「声」の投稿したところ、採用の運びとなり、字数オーバーなど修正されて、3月24日に掲載された。