やはりオリンピックはおもしろい

・・・・・・・・・・・・・河辺啓二のスポーツ論(12)

〈4年ごとのオリンピックー人生の記憶〉

 17日間のパリ・オリンピックが終わった。4年に1回(今回は3年間隔)のスポーツの祭典というわけだが、ふだんスポーツとは縁遠い生活をしている私でさえ、やはり日本選手の活躍は気になるものである。

 4年ごとだから、小学校時代、中学時代、高校時代、大学時代、そして若い社会人時代とそれぞれの時代のときに⚪⚪オリンピックがあったなぁというリンクされた記憶が蘇るのではないか。こういう若いときの記憶はかなり強く残っているものだ。さすがに社会人となって年齢を重ねていくとだんだんそのリンクの記憶が減少していく。ただ、数年ごとに転勤する仕事の人だったら、「どこどこに住んでいたとき⚪⚪オリンピックがあったなぁ」とリンクの記憶があるのではないだろうか(「転勤」「転校」のない私の人生ではないことだが)。

〈幻の東京オリンピック観戦〉

 実は3年前の東京オリンピックのとき、ナマのオリンピック観戦ができるチケットを得ていたのだ。なにしろ「大激戦」のチケット争奪戦。妻がネット抽選で奮闘し、やっと卓球観戦のチケットを当てた。土曜の夕方の試合だった。仕事終わって観に行けると楽しみにしていたが、例のコロナ禍で観戦は中止へ。人生初のオリンピックナマ観戦は夢物語と化してしまったのだ。

〈大歓声の中で〉

 コロナ禍の東京オリンピックは無観客だったのが、今回は大歓声の中で試合ができた。前回と違って夥しい観客の観る中で試合に臨むアスリート達はその幸福感を抱いたことであろう。特に連続出場して東京よりよい成績をあげた選手はそう思っただろう。

〈やはり気になるメダルランキング〉

 たしか、大会前日本の金メダル目標20、と聞いていたが、まさにそのとおり20個と外国開催のオリンピックで最多数(前回の東京では27個)を獲得、銀・銅メダルと合わせた総メダル数も45個となった。お家芸の体操・柔道・レスリングに加えて、新しい種目のスケボー、ブレイキン(これらのスポーツは、私ら中高年には馴染みが薄いが)などでもメダルを稼いだ印象だ。特に貢献したのは、前半で日本体操を牽引した若きエースの岡慎之助と後半で金メダル8個も獲得した男女レスリング選手団であろう。

 メダルランキングなんて重要視すべきでないという意見もあるが、やはり気になる。アメリカ・中国の次の第3位にランクされた。まさに日本は「スポーツ大国」と言ってよいだろう。このランキングだが、各国の人口や経済規模との相関関係を調べるとおもしろいかもしれない。少なくともベストテンの国々の中では、日本は人口もGDPも第3位なのだ(と言いたかったけどつい最近GDPはドイツに抜かれて第4位)。今や世界最大の人口を擁するインドのメダル獲得数は僅かに6個(銀1、銅5)に過ぎない。インド国民の殆どがクリケットばかりして、他のスポーツに興味を示さないお国柄だから??。

〈シドニー五輪の篠原選手が思い出される〉

 愉快なことばかりではなかった。「誤審ピック」と揶揄されるほど、「?」と思われる判定が多々見られた。

 まず、開催国フランスに「味方」した判定が続出。男子バスケットボールの日本対フランス戦での河村勇輝のファウル判定が、日本だけでなく他国からも「大誤審」と批判されている。

 「世紀の大誤審」といえば思い出されるのが、2000年シドニーオリンピックの柔道100キロ超級決勝での篠原信一の幻の金メダルだが、その柔道ではたまた疑惑判定がぞろぞろと出てきた。柔道最終日の混合団体決勝の代表戦でのデジタルルーレットは、フランスの英雄・リネールが出場することになり「疑惑のルーレット」と騒がれたが、まぁ、これは不正ではないかなと思われる(ドラマとしては出来過ぎかな)。この団体戦での最大疑惑は、日本3―1フランスで迎えた第5試合で圧倒的に阿部一二三が攻め続けて優勢だったのに、相手のガバの消極さに3つめの「指導」が結局出されなかったことは、素人の私でも変だと感じたものだ。

 フランス贔屓(ひいき)ばかりでなく、この審判、日本人嫌いかと思われることもあった。90キロ級の村尾三四郎の内股が「技あり」としない疑惑判定のために銀メダルに終わった(相手はジョージアの選手)。にもかかわらず、彼は潔く柔道家らしい礼儀を示して畳を去ったことで賞賛されている。(対照的に、大声で号泣した阿部詩は一部批判の声もあるが、まぁ、無表情がイメージとされる日本人にもこのように感情を爆発する人がいていいのではないかな・・・。)

〈永山選手の精神力に感動〉

 「誤審ピック」の中で、私が最も感銘を受けたのは柔道初日の60キロ級で銅メダルとなった永山竜樹だ。準々決勝で、「待て」がかかったにもかかわらず相手(スペイン)に絞め技を続けられ、失神し「一本」負けとなってしまった。相手の選手は「待て」が聞こえなかったと弁明しているが、それが本当だとして、何秒間も放置したこの女性審判の対応がひどい(もちろん批判されまくっているが)。私が感動するのは、その後敗者復活戦で勝ち続け銅メダルを獲得したことだ。実力的にも十分金メダルを狙える選手が、誤りの判定で敗退させられ、残りの試合に全部勝っても銅メダルしかもらえないという状況になると、並みの精神の持ち主なら「くさる」のではないかなぁ。もし、私なら、間違いなく「くさって」はやばやと負けてしまうだろう。永山選手はすごい。圧倒的な強さで敗者復活戦を全勝してしまったのだ。